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葡萄菓子「月の雫」は江戸時代から大人気

月の雫 山梨ならではの菓子の一つとして甲州葡萄粒のまわりを摺蜜(フォンダン)で固めた「月の雫」があります。口に含むと生葡萄の酸味に蜜の甘味が融け合って独特の味が口の中に広がります。新鮮で美味しい葡萄を使った秋限定の季節商品であることが月の雫の魅力です。参考資料(甲府買物独案内)によるとその起源は200年前と案外に古く、江戸時代から存在したことが様々な古文書に記されています。甲府を代表する菓子商である升屋の経営資料によれば「月の雫 源氏榧 源氏胡桃 沢辺かん 木実の雪 厳栗」これらの年間売上高が現在の千二百~二千万円(金子二百両)に相当し、売れ筋商品であったことが分かります。甲斐の国内にとどまらず、他国にも知られ評価が高かった事は、山梨県立図書館が収蔵する、江戸時代の手紙(久保倉より市川喜左衛門宛残金差送り安否伺い書簡)からも窺えます。 現代語訳でその一部を紹介すると「甲斐国の名産品である月の雫を送って頂き、久しぶりに美味しく頂戴いたしました。誠にありがとうございます。」とあり、当時から他国の人々にも甲州を代表する名物として月の雫が知られていたことが読み解けます。

甲州買物独案内 安政元年(1854年)升屋において「月の雫」が販売されていたことが紹介されています。 砂糖と甲州葡萄粒と至ってシンプルな材料しか使わない菓子ですが、美味しく作るのはなかなか難しいのです。この商品の肝は摺蜜の口どけです。口の中に入れてサッと溶ける塩梅に砂糖を煮詰める必要があります。詰めすぎれば葡萄の果汁と絡まずに砂糖が口に残り、逆に詰めが足りないと粘りが出て甘さが強くなってしまいます。現在では、精度の高い温度計でおおよそ合せることができるが、それでも鍋の淵の砂糖を丁寧に落としながら煮詰めないと、なめらかな摺り密を作る事は難しいのです。当時の職人は勘で作っていたのですから妙技であります。ともあれ、江戸時代の和菓子が現在も変わらず皆様に愛されている裏側には、おいしい「月の雫」を作り続けた歴史があります。私たちは、特産品であった甲州葡萄を利用して独自の味を開発し、全国にそれを発信してくれた先人の築いた歴史を傷を付けない様に大切にこの味を守らなければならないと思うのです。

 山梨県菓子工業組合・浅川敏彦

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