各地の菓子店探訪
三重県菓子店の投稿

夢菓子工房 ことよ

伊勢志摩サミット~菓子博を起爆剤に

みたらしパイ 初代岡本竹治氏が菓子修行を終え、「ことよ軒」を三重県四日市市に1948年創業。「ことよ」の語意は、よろず、あらゆるものという事で、鮮魚、雑貨も販売する商店であった。2代目の岡本二三男氏時代に、お菓子専門店として「ことよ製菓舗」と改名。現在、3代目の岡本伸治氏が代表取締役に就任し、「夢菓子工房 ことよ」の屋号にて現在に至る。

 氏は卓越した技術を有する、業界でも屈指の職人。日々の仕事はもちろん、名和会(名古屋和生菓子研究会)で研鑽を重ね、後進の指導にも積極的に取り組んでいる。特に業界内外に氏の卓越した技術を発信したのは、平成14年のTVチャンピオン(テレビ東京の人気番組)である。テーマに沿った菓子作り~工芸菓子で競い、見事優勝を勝ち取ったことが契機となった。また、その後も「選和菓子職」の資格に挑み、8回目のチャレンジで難関を突破する等、技能向上と研鑽に飽くなき探求心を持つ名実ともに優秀な技術者で、経営者である。

岡本氏 その「ことよ」が一昨年の10月に、本店から車で30分ほど離れた閑静な住宅街に、白梅の丘店をオープンした。今回、突然の取材申し込みにもかかわらず、大平あゆみ店長に快くご対応頂いた。

 こだわりのみたらし団子(5玉1本)はやや醤油勝ちの香ばしい風味が特徴で、表面がカリッとした逸品。美味しさもさることながら、54円(税込)との価格にも驚かされる。もちろん、白梅の丘店でもそのこだわり実現のため、店内で焼き上げるのは本店と同じスタイルである。白梅の丘店の開店記念銘菓として発売された「みたらしパイ」はサクサクで香ばしい風味。お客様の大半がお求めになるみたらし団子のタレの味を再現し、ギフトでも風味をお届けしたいとの思いからであるという。

 また、新店の目玉はお菓子教室。通常、商品や店舗イベントの案内等を展示している3mほどのカウンターが、お菓子教室の受講者のための作業台に早変わり。子ども対象の教室で、社長自ら得意の練り切り細工を披露。氏は人気のキャラクターも巧みに表現するので、受講する子ども達は一層目を輝かせる。

 最後に大変多忙な岡本氏にこれからの「ことよ」、菓子業界への思いを聞いてみた。

 伊勢志摩サミットを控え、現在工芸菓子を製作中。日本文化のPRのためと、外務省から依頼を受けた三重県が「ことよ」に白羽の矢を立てた。セキュリティーの関係で情報がなかなか公にならない状態で、急きょいろんな指示に対応するのは大変であると語るが、プレスセンターが全菓博会場となる「サンアリーナ」に併設されるなど、菓子博のPRにも繋げたいと意気揚々と取り組んでいる。

 さらに、来年の全菓博に向け、シンボル菓子制作部に所属し、総勢30名で歌川広重の浮世絵「宮川の渡」の情景をテーマとして、巨大工芸菓子の年内完成を目指す。その制作部のうち10名が「ことよ」のスタッフであると聞き、「ことよ」の精力的活動には敬服するばかりである。

 また、白梅の丘店は、ことよ本店から車で30分と商圏が全くリンクしないエリアであり、他店化する手法としては常套策ではないのでは?と聞くと、確かに苦労を買って出るような手法であるが、白梅の丘エリアは、名古屋のベットタウンであり、大手電機メーカーの大型工場が誘致され、人口も増えている。そして何より、日本で最も子どもの数が増えたエリアであるという。住民同士の繋がりを強化している地域であり、朝の清掃活動や地域イベントに店舗として参加し、地域密着活動にもしっかりと取り組んでいるという。その甲斐あって、子どもネットワークからの広がりもあると、期待感を表す。業界での技術講習会もさることながら、少子化で担い手不足、人材確保が難しい時代が到来するといわれている中、菓子職人への憧れを抱いてもらう有意義な活動であると感じた。

 将来、本店とこの白梅の丘店の間にセンター工場を作り操業を始めることで、しっかりと商圏をリンクさせ、エリアを囲い込むとの展望を持っている岡本社長。41歳の若さながら、人材育成にも力を注ぎ、自身の菓子製造技術の向上に努め、地域貢献となる営業スタイルを一貫して行っている。「夢菓子工房ことよ」の成長はまだまだ続くものと感じた。

 全菓連青年部中部ブロック長・村中洋祐

夢菓子工房 ことよ

白梅の丘店 代表取締役 岡本 伸治氏
   三重県菓子工業組合理事、
   同青年部副部長、
   全菓博シンボル菓子制作部
 白梅の丘店 店長 大平 あゆみ氏