廃業を引き継いだ清風亭
とにかく続けることが今の目標
やまぐち幕末ISHIN祭。来年迎える明治維新150年に向けて山口県では高杉晋作を公式キャラクターに様々な観光キャンペーンの取り組みを行っています。その高杉晋作が眠る墓所「東行庵」。梅や菖蒲に紅葉、池には優雅に泳ぐ鯉といった四季折々の風景は観光名所でもあります。
その東行庵を挟んだ向かいには高杉晋作がこよなく愛した梅をモチーフに没後120年を記念して下関菓子組合新製品部会が開発した晋作もちを販売する店舗が2つあります。晋作もちは紫蘇を練り込んだ餅につぶあんを包み込んでいるものと、その餅を紫蘇の葉でくるんだものの2種類です。東行庵限定の日持ちがしないお土産として山口県西部では有名です。
その一つ、晋作もちとともにお土産や軽食を扱って30年の「清風亭」が高齢で後継者不在を理由に廃業の道を選択したのは昨年のこと。引き継いでくれるところがあればという前店主の思いを感じながら、組合員がどこも躊躇する中、最中種を卸す手島柳太郎氏が途絶えさせてはならないと屋号そのままに店舗を引き継ぐことを決意しました。飲食業の許認可も取得しており初期投資は最低限で済んだとのこと。最中種の製造は三代目息子康太郎氏が主体で行っていることも幸いして60歳を前に家族を巻き込んで一念発起しました。
あれから3ヶ月。手島氏、奥様と娘さんの3人で店舗を運営しています。晋作もちと朝生和菓子や仕入れた土産品を並べ、店舗の半分は食堂になっています。晋作もちは鉄板で焦げ目をつけた熱々焼立て販売が特長。常にお客様を迎える態勢を整え、鉄板を温め、気の休まる暇がないと店頭販売の苦難に直面します。まして清風亭は食堂併設でソフトクリームもあり菓子と違った準備もありました。
一つは平日と休日の繁忙格差。特に観光名所であることからその差は激しく、うどん一杯の日もあったと言います。反面、休日や東行庵のイベント時は息つくまもない忙しさ。一つは顧客の多様すぎる声。一つ一つ真剣に向き合い家族の心が疲弊した時期もありましたが、あるときに「100人全部に満足してもらうことは無理」と開き直ったそうです。
課題はたくさんありますがとにかく続けることが今の目標。組合員減少の理由で最たるものは高齢による廃業です。このような形で店とお菓子が残る幸せを何より感じているのは前店主かもしれません。現実は店舗の所有権や商標権など複雑な要因もあり廃業したから次に誰かと言うのは容易ではないけれど、組合は新しい菓子屋のモデルとなることを願います。
「おもしろきこともなき世におもしろく」高杉晋作の辞世の句です。俺がやらなければ誰がやる。娘さんが優しいお父さんと言います。だから家族で卸から激変した環境を楽しめるのでしょう。
山口県菓子工業組合専務理事・恒松恵子