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紀州の和菓子 その文化とまちづくり

豊かな和菓子文化はよいまちの条件だ

鈴木裕範著 和歌山リビング新聞社刊 248頁 1000円 この本は、これまで語られることのなかった紀州の和菓子の歴史と文化について、しられざる逸話を紹介しながら、〝和菓子文化ルネッサンス〟の必要性を説く一冊。著者は和歌山大学経済学部教授。

 「菓祖田道間守が棲む紀州は、和菓子の物語を語るにふさわしい土地」著者は、書き出す理由をこう記す。この中では、旧城下町の和歌山、田辺、新宮など6地域の今日の和菓子文化を俯瞰したうえで、紀州徳川家の御用を勤めた総本家駿河屋の歴史や江戸時代に生きた紀州女性、沼野峯と川合小梅『日記』が記す和歌山城下の菓子事情、表千家家元が代々紀州藩御茶頭をつとめ、江戸千家流祖川上不白を生み出した茶の湯の文化を訪ね、グローバルかつローカルに紀州と和菓子文化をみつめたのが、この本の特色である。

 煉羊羹は、寛政の頃の江戸で発明されたというのが通説だが、著者はその以前に京都で誕生したという駿河屋の伝承に耳を傾ける。千家三世家元宗旦と駿河屋当主をめぐる〝秘話〟や紀州女性が書き留めた「羊羹」に関する記述に注目する。羊羹では真言密教の聖地高野山の名物「蒸羊羹」は、寺院の懐石料理の盛干をルーツとすることが解き明かされ、山麓の橋本市で年末3日間だけ売られる素朴な「でっち羊羹」の風習は、羊羹に流れる長い時間に誘う。また、郷土の菓子では、紀州の独特な柏餅や柚べしに目を向け、背景などを語って興味深い。

 「美味しい和菓子はいい町の条件。そこにはよい木、伝統文化があり、モノづくりを尊敬する人がいる」まちづくりを研究テーマとし、研究室での一日は一服の抹茶から始まり、1週間に一度は、季節の和菓子を味わうという著者。「和菓子文化を日本文化・地域文化として再評価し、まちづくりに生かそう」というメッセージであふれている。

 和歌山県菓子工業組合事務局長・高橋義明

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