春を届けるいちご大福と広がる和の輪

北陸・富山にようやく春の兆しが見え始める頃、地元の百貨店「富山大和」では、早春の恒例行事となった「いちご大福フェア」が幕を開けます。10年以上前に数軒の地元菓子店から始まったこの催しも、回を重ねるごとに少しずつ輪が広がり、今では県内外から約20店が参加するまでになりました。そして今年は10日間で24,000個もの大福をお客様へお届けすることができ、一過性のイベントを超え、地域に根付いた「富山に春の訪れを告げる風物詩」のような存在になっています。一人の作り手として、この場所に寄せる想いをつづらせていただきます。
この催しの原点は、かつて百貨店の担当の方からいただいた「一緒に春を届けませんか」という一言でした。その一通のお誘いから、すべてが始まりました。昨年からは会場を拡大し、県外から新しい感性を持つ店舗も加わったことで、お客様が「どの大福にしよう」と楽しそうに選んでくださる姿をより多く見かけるようになりました。原材料の高騰など、菓子業界を取り巻く環境は年々厳しさを増していますが、こうした発表の場を整え、大切に守り続けてくださる富山大和さんの存在は、私たち職人にとって何よりの支えです。
当店にとって「いちご大福」は、格別の思い入れがある菓子です。1997年の新店舗開店当時、思うように客足が伸びず苦慮していた私たちに、あるお客様が「いちご大福を作ってほしい」と声をかけてくださいました。当初は「大福にいちごを入れるだけ」と安易に考えていたものの、餅・餡・いちごの「三位一体」のバランスは難しく、何度も試作を重ねようやく満足のいくものに仕上がりました。販売から数日でお客様から次々とお問い合わせの電話をいただいたときの高揚感は、今でも忘れられません。

その後、いちご大福は当店を代表する季節商品へと成長しました。そして2024年「棋王戦」富山対局において、藤井聡太棋王と伊藤匠七段(いずれも当時)の勝負おやつに選ばれるという、身に余る光栄に浴したのです。かつて店を救ってくれた小さな「いちご大福」が、富山大和さんの催事を通じて多くの方に届き、ついには盤上の天才たちの手に渡ったことは、深い感慨を覚えた出来事でした。
富山大和さんが蒔いてくださった種は、長い年月をかけて街に穏やかな笑顔を広げてくれました。一軒一軒の菓子店に寄り添い、共に歩んでくださる皆様への感謝は尽きません。
そして今年、私たち富山県菓子工業組合では、「和菓子の日」の普及を目的とした新たな挑戦を予定しています。各店舗が趣向を凝らした「創作まんじゅう」を開発し、自店のみならず、富山大和さんの会場に一堂に会して販売するという試みです。百貨店との温かいご縁が、初夏の新しい和菓子文化づくりへと力強く繋がっています。
「これからも、この場所で、皆さんと一緒に春を届けていきたい」。そんな願いを込めて、また来年も美味しい一品をお届けできるよう、そして初夏の創作まんじゅうが多くの方に届くよう、一つひとつ丁寧に手を動かしてまいります。この温かな交流の場が、これからも末永く続いていくことを心より願っております。
富山県菓子工業組合副理事長・大﨑隆司
全国菓子工業組合連合会