素材・製法にこだわり抜いたパン作り
~パン工房麦穂~

熊本県と隣接する鹿児島県北部の出水市は、鹿児島市からは車で約90分、新幹線では約25分。冬は鶴の飛来地で有名ですが、今も武家屋敷が保存される歴史と文化の街でもあります。
そんな出水市緑町にある「パン工房麦穂」を訪ねました。
実は以前からとっても気になっていたパン屋さんなのです。10年ほど前に高級食パンブームがありましたが、そんなブームと一線を画す存在感、ブームの終焉など物ともしない安定感。白神山地の天然酵母って何。ワクワクする思いで店主の渕上淳二氏にお話を伺いました。

今でこそ手に入るようになった白神こだま酵母ですが、氏が開業する30数年前はなかなか手に入らず、条件の厳しい特別契約で入手したそうです。しかも大変高額です。その強いこだわりと情熱はどこから来たのでしょう。
それはもっと時をさかのぼります。氏が以前勤めていた会社から海外に派遣され技術指導をしていた頃、日本では小麦粉もイーストフードも簡単に手に入るのに、現地では原料が手に入らず、マレーシア人、中国人、インド人など多国籍の従業員たちに指導をしながら、一から時間をかけて作り、仕上げていったそうです。
それはとても大変な作業だったそうですが、時間をかけて手間暇かけると美味しいパンが焼けること、じっくり作るという良さを学んだとのこと。日本に帰国後、日本の時間の流れの速さに心身共に疲労が蓄積して体調不良となり、マレーシアで過ごした時間の流れの貴重さを思い出し、そして当時愛息が病弱だったこともあり、美味しくて安全な物を食べさせたいとの思いが強くなりました。

そして、白神こだま酵母だけでなく、国産小麦粉、無添加など、とことん材料にこだわり、その日に届いた小麦粉の品質を見極め、温度管理など微妙な調整にも徹底的にこだわるパン屋を出水の地に開業しました。
これほどこだわれば、どうしても価格は高くなります。オーガニックが周知されない時代です。開店当初は売れなくて、奥様が夕方パンをもって訪問して売ったり、企業を回って販売したりと大変苦労もされたそうです。
しかし、こだわりの強さでやり通せば、「麦穂」のこのパン以外はもう食べられないという、こだわりの強い固定客がつきます。そのお客様たちを裏切らない、飽きられない、求められるパン作りに、氏は日々邁進しておられます。
最後にお伝えしておきますね。病弱だった息子さんは現在では健康で良い青年に成長、また困難な時期を支え、二人三脚で歩んで来られた奥様のお名前は「智穂子」さん。「パン工房麦穂」の名前の由来です。素敵ですよね。
鹿児島県菓子工業組合・事務局長・惠島理子
全国菓子工業組合連合会