各地の菓子店探訪
青森県菓子店の投稿

日本遺産を支える老舗「村上屋」と五代目・工藤哲也氏の歩み

鰺ヶ沢の歴史を噛み締める――

店主の工藤氏

 青森県西津軽郡鰺ヶ沢町本町。かつて日本海を舞台に活躍した北前船の寄港地として栄えたこの港町には、数百年の時を超えて愛され続ける伝統の味があります。その代表格が、文化庁の日本遺産「北前船寄港地・船主集落」の構成文化財として追加認定された銘菓「鯨餅(くじらもち)」です。そして、この歴史ある伝統の味を町内で唯一守り続けているのが、明治時代に創業した老舗「村上屋」の五代目店主・工藤哲也氏です。

 鯨餅は、精選された米粉と砂糖、そして小豆を練り上げ、丁寧に蒸して作られる滋味深い生菓子です。その名の由来は、古くから「力」や「縁起物」の象徴とされてきた鯨の姿にあります。鯨餅の断面に見える「黒い皮と白い脂肪層に見立てた二層構造」の美しい意匠は、江戸時代に京都から北前船によって製法が伝えられ、津軽の地で独自に発展を遂げたものです。かつては町内に5軒ほどあった鯨餅店も、時代の移り変わりとともに今では村上屋だけとなりました。日本遺産への追加認定を受け、工藤氏は「鯨餅は重みのあるお菓子。認定されたことで、さらにその重み、そして作っていく責任を感じている」と地元新聞の東奥日報の取材で語り、伝統を次世代へ繋ぐ覚悟を新たにしています。

鯨餅

 菓子職人としてのこだわりを見せる工藤氏ですが、その素顔は鰺ヶ沢の地域コミュニティを根底から支える、なくてはならない「町の要石」でもあります。

 工藤氏は、青森県菓子工業組合西支部の会計を長年にわたって務め、地域の菓子業界の発展と連携に大きく貢献してきました。また、地元の町内会や消防団でも要職を歴任しており、地域の安全を守り、住民の結束を高めるリーダーとして絶大な信頼を寄せられています。さらに、北前船の歴史を今に伝え、町民の精神的支柱でもある由緒正しい「白八幡宮」の総代という大役も務めており、町の伝統行事や文化を継承する重要な役割を担っています。

 公私ともに多忙な日々を送り、地域のために尽力する工藤氏ですが、プライベートに目を向ければ、5人のお孫さんを持つ優しいおじいちゃんという非常に温和でチャーミングな一面も持ち合わせています。地域のために汗を流し、家族を優しく慈しむその温かな人柄があるからこそ、村上屋が守り続ける鯨餅には、単なる甘味を超えた深みと優しさが宿るのです。

 北前船がもたらした遠い日の歴史ロマンと、それを現代まで実直に繋ぎ止めてきた職人の情熱。村上屋の鯨餅は、鰺ヶ沢の豊かな文化と工藤氏の地域愛がぎゅっと詰まった、まさに「食べる歴史」そのものと言えます。これからも日本海の心地よい潮風とともに、鰺ヶ沢を訪れる多くの人々の心とお腹を満たし、温かい笑顔を広げ続けていくことでしょう。

 青森県菓子工業組合副理事長(西支部長)・山崎康裕

【店舗情報】

村上屋鯨餅店

•店名:村上屋
•所在地:青森県西津軽郡鰺ヶ沢町大字本町
•代表者:五代目・工藤哲也
•主な取扱い:鯨餅(日本遺産構成文化財)