各地の菓子店探訪
和歌山県菓子店の投稿

「発酵食のふるさと」 湯浅 しょうゆまんじゅう

湯浅町湯浅御菓子司つるや

しょうゆまんじゅう パッケージ

 沖合に小島が点在し、醤油の匂いが香る町、有田郡湯浅町。この町を人は、「醤油発祥の地」と呼ぶ。

 醤油・金山寺味噌、鯖のなれずし、いくつもの発酵の食文化がこの町を特徴づける。白壁の醤油蔵、町屋、虫籠窓、格子戸、町中に小路と露地が交差するこの小都市に、「町の和菓子屋さん」として130年以上にわたり住民に愛され続ける和菓子屋がある。御菓子司つるや、この店の名物にしょうゆまんじゅうがある。つるやは明治初期に和菓子と郷土ずしの店として創業した。

北町のまちなみ

 「醤油の町にふさわしい名物をこしらえたい」4代目川野益弘さん83歳が考えたのが、「しょうゆまんじゅう」だった。湯浅町は北町地区を中心とする地域が、2006年国の重要伝統的建造物群保存地区に選定、翌年10月第一回全国醤油サミットが開催される。

 湯浅銘菓しょうゆまんじゅうは、淡い醤油色のしっとりした肌の薯蕷饅頭で、一口大に割って頬張ると、醤油味のこし餡がゆっくりと口のなかに溶けていく。材料は、山芋、米粉、砂糖、そして醤油と水。饅頭作りは山芋と砂糖、米粉をボールの中で練る生地作りから始まる。ねり棒を使い「芋の力」を引き出すのである。粘りが出てきたところで醤油を加えてさらに捏ね、生地がほどよい固さになったのを確かめ、小判型に餡を包み蒸す。「作業は薯蕷饅頭と一緒、ちがいは醤油を入れるか入れないか」と5代目川野嘉幹さん51歳。火は強めだが、「蒸しすぎたり焼きすぎると割れたり、焦げてしまう」。タテ6センチ、ヨコ5センチの饅頭が蒸し上がると、鉄板にのせ、焼く。使う醤油は老舗角長の江戸時代以来の醤油蔵で伝統的な製造方法で醸される濃い口のたまり醤油。「餡を炊いていて香りがちがう」。まろやかさのうちにも切れ味を伝える醤油と小豆餡が奏でる協奏曲である。2日がかりの作業である。

つるや4、5代目

 和菓子職人冥利とは何か、をたずねた。「お客さんに美味しいと喜ばれる和菓子を作ること」。家の長男に生まれた川野さんは、無意識のうちに暖簾を引き継ぐ覚悟をもって育ち、4代目の父益弘さんの傍らで仕事場に立ってきた。50年以上菓子と向かい合ってきた「師匠」である父、顔なじみ、遠来からのリピーターの多さが「いかにお客さんに愛されてきたか」わかると言う。町のお饅頭屋さんのコミュニティがみえる。

しょうゆまんじゅう

 北町地区が、国の重伝建に選定されてことしで20年、歴史的な町並みは、地域住民の強い思いと地道な取り組みの成果だった。「ここには暮らしの中に産業がある」。歴史の面影を色濃く残す町に暮らす住民同士が交わす会話はやさしい。湯浅の魅力は何か、という問いに5代目は即座に口を開いた、「海、川、山があり、コンパクトで住みやすい距離にある」。端午の節句の柏餅の葉が近くの山にあるふるさとが、誇らしい。嘉幹さんは日曜をのぞく毎日午前1時には起床し、仕事場に立ち、12,3種類の饅頭や郷土のみかん大福、季節の生菓子を作る。店頭にいた客のつぶやきが聞こえた、「美味しくてこの値段、どれもほしくなる」。

しょうゆまんじゅう

 同じ屋根の下、母の玲子さんは郷土ずしを作ってきた。秋祭りのご馳走のアセの葉で包むサバのなれずしがあるが、母や名人のおばちゃんらから伝統の味と技を継承した。嘉幹さんは、湯浅の味を伝える二刀流の職人である。

 記事投稿:紀州の和菓子と文化を考える会代表・鈴木裕範和歌山大学客員教授
 発信人:和歌山県菓子工業組合事務局高橋義明