世の進歩に順じて菓子作りに精進
「家業は世の進歩に順ずべし」

龜屋は、川越で天明三年に創業して今年で243年になります。天明三年という年は浅間山の噴火を原因とする大飢饉が起こった年として知られておりますが、川越はそれほど飢饉の影響を受けなかったと言われております。
そんな川越は古くから関東地方の要衝で、太田道灌により築城された川越城や、徳川家光により再建された喜多院などが現存し、江戸との関わりが強いことから小江戸と呼ばれています。当店の四代目に於いても、江戸の壺屋で修行し、洗練された江戸風の菓子作りを伝えたといわれております。その他にも初代から「上物主義」を掲げて、良いものを使い、良いものを作る、という菓子作りを徹底してまいりました。亀甲型をした代表銘菓「亀の最中」は、国産もち米と小豆にこだわり、昔から変わらぬ味をお客様にご好評いただいております。

その一方で当店には「家業は世の進歩に順ずべし」という家訓があります。
時代の進歩とともに家業をより良いものにしていくべし、という意味ですが、同時に悪辣な世の変化には抗い、譲れない龜屋らしさを維持していくべしという意味も持ちます。六代目の時代には闇物資を使わなかったため十年近く店を閉めざるを得ませんでしたが、それは龜屋が標榜する上物主義に反するためでした。
近年、温暖化による天候不順などにより、菓子の材料となる農作物の生育にも影響が出ております。また急激な寒暖差や、日常に食する物の変化などにより、人の味の感じ方も変わってきています。そうなると同じように菓子を作っていては、周囲の環境の変化から取り残され、何も変わっていないにも拘らず「変わってしまった」という評価を受けるかもしれません。江戸から続く味を現代に伝えるためには、より良いものを目指して日々変えていくしかありません。

当店では長くご愛顧いただいている代表銘菓や定番の御菓子に加えて、猫型のどら焼き「たまどら」や、虹から落ちる水滴を寒天で表現した映える菓子「虹の雫」、マンゴー餡を道明寺で包んでココナッツをまぶした、アジアンテイスト和菓子「南島果」など、日々、新しい時代の和菓子を開発、販売しています。その他にも今年は、明治三十九年に販売を開始して、惜しまれながらも十数年前に販売を終了してしまったクリスマスケーキを、洋菓子販売開始120周年を記念して復刻し、限定販売する予定です。
龜屋はこれからも変わらぬご愛顧をいただけるよう、日々、世の進歩に順じて菓子作りを精進してまいります。川越にお越しの際は、ぜひお立ち寄りくださいませ。
株式会社龜屋代表取締役・山﨑淳紀
全国菓子工業組合連合会