銘菓の老舗たわらや
老舗と言われて恥ずかしくない店に
私の店は、軽井沢町と県境を挟んだ隣町で、通過点となっている松井田という田舎町です。中山道が通っていて昔は米宿として大変賑わっていたそうですが、現在の商店街は空き店舗だらけで昔の賑いは全くありません。
36年前私が見習いから戻った時の店舗は、旧国道18号沿い商店街の横丁に有り、全国で実施された簡素化が定着し、今までの売り上げの半分以上を占めていた仏事饅頭の注文が減ったのを切っ掛けに、先代が店売りに力を入れ始めた時でした。
この田舎の菓子屋をどう変えていったらいいのか、とりあえず新しい包材を作るに当たり見習い時代お世話になっていた当時の大光堂の専務伊藤さんに頼むことにしました。
『たわらや製菓』という屋号をどう変えるか相談したところ、『銘菓の老舗』を付けたらどうかと提案されましたが、自分で老舗というのは、なんだかおこがましくて笑われそうだと言ったら「笑いたい人には笑わせておけば良い、老舗と言われて恥ずかしくない店にすれば良いだけの事、お客様に喜ばれる菓子を創り末永く幾代も続けていきたいという目標だよ」と、気合を入れられました。
屋号も『銘菓の老舗たわらや』と決まり心機一転スタートを切り、先ずは商品券半額お返しの創業百年セールを行いました。これはお客様に何度も来ていただき、店に興味を持って頂くための売出しです。また惣菜まんじゅうを中心に、日本の行事の謂れを添えた菓子や、群馬で見かけない菓子を季節ごとに販売し、おかげさまでお客様方の口コミや、先代の信用、好景気も手伝って店売り中心の充実した店となりました。1989年には駐車場を設ける為の移店も出来て、地元はもちろん、市外、県外からもご来店いただいております。
以前講演会で聞いた話によると、物事を上手くいかせるにはメンタルが大切で、負(-)の考えの人はどんどん負(-)の方向へ転がって行き、逆に正(+)考え方の人は次第に正(+)へ向って行くのだそうです。商人も景気が悪いと嘆かないで、嘘でも良いから朝玄関を出る時、「俺が日本を元気にするぞ」などと少し大袈裟な(+)の言葉を声に出して言うと、その声が耳から入って脳に行き、脳が(+)の反応をして(+)方向に動いて行くのだそうです。
『銘菓の老舗』というサブタイトルも、(+)方向への一つのメンタル的要素が含まれていたのだと思います。
今は、元気のない日本ですが心は前向きに「俺が日本を元気にするぞ!」「名店と呼ばれる店にするぞ!」と大き過ぎる目標を口にして楽しんで仕事に励んでいきたいと思います。
群馬県菓子工業組合・小黒雅史