冨士屋菓子店
凛とした揺らがぬ信念で
ここ数カ月の間に2回も、新聞紙上で「鹿児島県菓子工業組合伊佐支部長 周防原利幸さん」の文字を見ました。これは、是非お話を伺わねば。
鹿児島市から、新緑が鮮やかな美しい山あいの道をひたすら北上。深緑、若竹色、萌黄色、鶯色、種々な緑が重なり遠景になると、碧くなるのだなと感慨深く思いながら走ること2時間弱、目的地の伊佐市大口里「御菓子司冨士屋」に到着しました。
冨士屋さんは、創業90年になる老舗で、利幸さんは3代目です。先代の敏實さんは現在でも現役で、上生菓子などの和菓子を中心に頑張っていらっしゃいます。
新聞記事の件について伺うと、地元の畜産業者から、クリスマス限定のチーズを用いたコラボ菓子の依頼があったとのこと。普段使用しているチーズと違い、発酵の浅いヨーグルトに近いチーズだったため、苦労して何度も試行錯誤を重ね、冨士屋さんがスフレチーズケーキを、同じく伊佐支部の「橋脇風月堂」さんがレアチーズケーキを作って販売したところ、あっという間に完売したのだそうです。
そして、再度ホワイトデー用に前回の3倍もの数のケーキ作成の依頼を受け、それもすぐに完売したのだとか。今後も、同じように期間限定の地産地消のコラボが続くのかもしれないですね。
冨士屋さんの代表銘菓は、「時雨」を「かるかん」でロールしたお菓子「薩摩タルト」です。その何とも言えない上品な甘みと、もっちりしっとりした食感がたまらない魅力で、お客様が何度もリピートする気持ちがよくわかります。
実は、このお菓子には、面白いエピソードがあります。随分前に組合の講習会で紹介されたものの、その後、作り方があまりに面倒なため、当の講師でさえ、「あげんメンドくさかとは作っておれんど(あんなに面倒くさいのは作っていられないよ)」と作るのを辞めたお菓子なのです。
多くのお菓子屋さんが作るのを辞めたり、作っても餡を「時雨」ではなく「つぶ餡や漉し餡」に変えていく中で、時雨なればこそ、この旨味と食感がでるのだと頑張り続け、今では、押しも押されもせぬ看板商品となったのです。
伊佐の空気のように凛とした誇りを持ち、お客様を裏切らない味と品質をお届けする揺らがぬ信念で、これからも、地域で愛され続けるのでしょう。
鹿児島県菓子工業組合事務局長・惠島理子