御和菓子処「大野屋」
繁盛店紹介
今回はそんな愛知県北西部に位置する犬山市から「大野屋」を紹介させていただきます。
もっちりとした食感に、ほのかな甘さが口に広がる「ういろ」。
創業86年の老舗和菓子専門店「大野屋」は、代々の味を守りながら、新たな試みにも挑んでいます。
現在の店主、三代目の村瀬太一さんにお話を伺わせていただきました。
元々は桶職人であった先々代の村瀬鍵逸氏が瀬戸市で和菓子作りの修業を積んだ後「大野屋」を譲り受けたとのことです。
当時は、和菓子の他、パン類や駄菓子等の販売もしておりましたが平成6年に、先代が和菓子専門に移行し現在にいたります。
一人っ子と言う事もあり、二代目である父の姿を目にしてきた太一さんは物心ついた頃から家業を継いで行くものだと感じていたそうです。
大学卒業後、菓子作りを学ぶため取引先の紹介で蟹江町にある「司雀」で働いていたある日、実家より「父の体調が優れない」との連絡があり『ここで祖父から続く歴史を絶やしてはいけない』と家業継承の覚悟を決めます。
実家に戻った2年後の自身28歳の時に父親が他界し、その後大野屋を引き継ぐ形になりました。先代と一緒に工場へ入ったのは1年も無かったようです。
先代の時は、白、黒、桜、茶の4色のみの販売で、製造法も充填機、スチーマーを使用したものでした。太一さんが引き継いでから、蒸篭を使用した「ういろ」を復活。
蒸す時間も味や食感に大きな影響を及ぼすため、何度も試作を重ね、気温や湿度によっても細心の注意を払います。まさに経験と勘が頼り。そうして今のかたちにたどり着きました。それに伴い、季節限定のういろも販売。
また、地元犬山の抹茶を使用した「犬山抹茶ういろ」も人気商品のひとつです。和菓子屋でありますが、主力商品は「ういろ」。地元では、ういろしか売っていないと思っているお客さんもみえるほどです。
こだわりの米粉を使った草餅、柏もち、花見団子等にも力を入れ店舗販売商品の充実にも力を入れています。
「一口ういろ」や観光協会とタイアップした商品「串ういろ」は食べやすい形状にすることにより、従来の切って食べる手間をなくしています。街を散策しながらでも食べられる手軽さが子供からお年寄り、女性のお客様にも可愛くて綺麗、食べやすいと好評です。
常に新しい試みにも挑戦したいと、試作を重ねた末、昨年夏は柚子抹茶味を商品化、汁気の多い材料である果物を上手くコラボレーションさせています。
「お客様の中には、ういろが苦手という方もいるんです。しかし『大野屋なら食べられる』と言ってくださったことがあり、とても感激しました。お客様に良いものを届けるには手間暇かけることが大切」と語る太一さん。
地域や人々との交流も大切にしたいと、祭りやイベントにも積極的に参加。
大型ショッピングモールで出店し、訪れた人々と交流も惜しみません。
「普段は店の裏で製造に専念しているので、お客様と接する機会が少ないんです。だからこそ、『おいしい』と声を掛けてくださるのは最もうれしい瞬間で、やりがいを感じます」とのこと。
昨年には店舗の外装を改装し、今後の目標は「創業から続く味を守りながら、新しい試みにも挑戦して社会貢献する」こと。まちを盛り上げるきっかけになるだけでなく、和菓子業界にも貢献したいと話します。人々の笑顔を胸に、おいしさを日々追求する「大野屋」。創業から続く手作りのういろには、祖父から息子、孫へと受け継がれる情熱が込められています。
愛知県菓子工業組合・岩井基裕