各地の菓子店探訪
岡山県菓子店の投稿

風乃菓 籠もよ

餡が命、素直な味が客を惹きつける

籠もよ ここのお菓子を実家に持っていくと、母は毎回、おいしいわーどこのお菓子?と聞く。何度教えても覚えないのだが、無理もない82歳の母の現役時代にはまだ開業していなかったのだから…。

 実力派店主杉尾社長は滋賀のたねやで18年間修行してきた精鋭、工場製造部、商品開発部長を経て平成十四年に念願の「こもよ」を創業。老舗菓子屋でも、親から受け継いだ菓子屋でもない「こもよ」はなかなか名前を覚えてもらえず、厳しい経営が続いた。出身地でもない岡山での商売は難しく店の味を覚えてもらうのに7~8年かかった。自身の腕ひとつを信じ、店主のモットーは「和菓子屋は餡がすべて」全ての餡を自身で作る。小豆を洗う、煮上げる当たり前のことをやっていくだけ、と言う。一見すると風来坊の店主だが、和菓子を語りはじめると止まらない…。日持ちすること、売ることを優先すると包装や脱酸素剤に頼り、皮の硬さや甘さも変わってしまう。本来和菓子は作ったその日に頂いて欲しい、自ずと和菓子の素直さ、実直さが伝わる。看板商品の「蒸羊羹」をいただくと納得、日持ちしない「弓張」と金菓賞に輝いた「打鼓」は配合が違う。

杉尾社長 昔の私は洋菓子をいただくことが多く、季節によって並ぶ和菓子が変わることも知らず菓子組合に携わっていました。今は和菓子やお茶も美味しくて季節の移り変わりも楽しめるようになりました。「こもよ」に出会ってから、日持ち商品ばかりいただくのではなく、和菓子を新鮮な状態で頂きたいとも思うようになりました。

 これほど知識と技術のある職人は岡山では珍しくなりつつあります。現に今年の全国菓子大博覧会・三重に1人で乗り込んで工芸菓子を制作しました。作品名は「鷹」台座は「カルメラ」、こけは「落雁」で、羽は「餡平」培ってきた技術を結集して制作。仕事との両立は時間との戦いで、鷹がとまっていた木や周囲の風景までは満足のいく仕上がりではなかったものの、「鷹」には自身があった、今も店先には「鷹」がとまっている。店主の愛情を受け誇らしげに…

 岡山県菓子工業組合事務局・萱野美香