修行の賜物 大福屋
黒糖にこだわる「ふくれ菓子」
鹿児島市街地から宮崎、大分、北九州市へと繋がる九州東部の幹線道路、国道10号線は、終日車の往来が激しい。
その10号線が、鹿児島市内で唯一高架となっている長田陸橋。その下を垂直に交わる道を進むと街の表情がガラッと変わります。閑静な住宅地というだけでなく、大規模な総合病院が三つもあるからかもしれません。
その一画にある「大福屋」を訪ねました。テレビで何度も紹介されるほど「ふくれ菓子」が大人気の菓子店です。「ふくれ菓子」は鹿児島の伝統的な蒸し菓子で、小麦粉・黒糖・重曹で手軽に作られるため、スーパーや道の駅などでも必ず見かける、最も庶民的なお菓子と言えるでしょう。
だからこそ、奥が深く、作り手により、味と食感に違いが出るのです。「大福屋」にはコアなファンも多く、遠方からわざわざ買い求めに来たり、大物歌手への差し入れに用いられたり、また近くの保育園では、卵アレルギーの子どもにも安心で美味しいと、毎週おやつに購入されるそうです。お店には、園児たちからお礼に送られた、手作りの可愛らしい日めくりカレンダーが飾られていました。
「大福屋」の店主の方違清徳さんは、御年84歳。中学を卒業後、鹿児島の大手のお菓子屋さんで修行すること5年。そしてお礼奉公1年を終えて、大阪、名古屋、横浜で修行を重ね、48歳のときに鹿児島に戻り、現在の地に菓子店を開業したそうです。
お店には、他にも鹿児島の銘菓「かるかん饅頭」「春駒」「高麗餅」や「カステラ」「羊羹」「パイ饅頭」等々、多くのお菓子が並んでいます。「ふくれ菓子」を目当てに来店された方も、ついつい美味しそうであれもこれもと購入されるそうです。
「なぜ、数多ある『ふくれ菓子』の中で、大福屋さんはこんなに人気があるのでしょう」と問いかけてみました。黒糖にはこだわりがあり、喜界島(奄美大島)の黒糖を使用、そして、昔修行したときに作ったお菓子の手法も取り入れているのだとか。ここはきっと企業秘密ですね。
改めて、若い頃に色々なところで修行を積むのは、大切なことだなと思うそうです。
趣味のカラオケと、娘さんやお孫さんとの旅行や温泉を楽しみながら、これからも益々お元気で、地域に愛され続けるお菓子屋さんでいてほしいなと心から願っています。
鹿児島県菓子工業組合事務局長・惠島理子