各地の菓子店探訪
大阪府菓子店の投稿

御菓子司 お多福堂

伝統とチャレンジ精神のあるお店

焼き餅 大阪府と奈良県の県境に連なる生駒山地。その生駒山地の大阪側のふもとに有名な石切劔箭神社(いしきりつるぎやじんじゃ)があります。「当社は、我が大和民族が皇祖と仰ぎ奉る天照大神(あまてらすおおかみ)の御孫にあたられる瓊々杵尊(ににぎのみこと)の御兄、饒速日尊とその御子、可美真手命(うましまでのみこと)の二柱をお祀りしています。」(石切劔箭神社公式ウェブサイトより)

 その石切劔箭神社は市民の間では「石切さん」と親しみを持って呼ばれていて、その参道も店が立ち並び栄えています。そんな「石切さん」のほど近くに明治から続く創業百十二年の歴史ある「御菓子司お多福堂」があります。

 お多福堂三代目の木下弘さんが毎日休みなく製造し奥様の美子さんがそれを支え、お多福堂を地元の方に最も愛されるお店にしました。そこにこのご夫婦の間に誕生した三人兄妹の真ん中の実里さんが現在四代目として加わり、ご両親に負けず劣らず和菓子の製造・開発はもちろんの事、お客様からの愛情も受けるにまでなってきました。今回は家族経営でお互い助け合い伝統を守ってきた「お多福堂」さんの素顔に迫りたいと思います。

お抹茶ムースの水羊羹 実里さんにはリーガロイヤルホテルでブーランジェをしているお兄さんがいて、お店の事も何かと気にかけてくれて手伝ってくれるそうです。ジャンルは違えども共通することも非常に多い業界ですので頼もしい相談役です。妹さんも近い将来合流し益々お店の魅力が増しそうです。美里さんには高校生になるお子さんもいて、長男さんは剣道の腕前が一流なのですがお菓子にも非常に興味があるそうです。もちろん長女さんもお菓子が大好き。おじいちゃん、お母さんの背中を見て育っているのですね。仲良しお菓子大好き家族です。

 お店は朝7時から開店し盆と正月以外は年中無休で頑張っています。その数少ない休みにシャッターを閉めていると近所の方が「どないしたん?」って気にしてくれる、もはや市民の生活の一部となっているお店です。この「ブロック長がゆく」のインタビュー中も町行く通行人に何回も手を振る実里さんのお母さん。めっちゃお茶目で地域で愛されているのが伝わってきます。ただ地域で愛されているだけでなく遠くからわざわざ足を運んで来店される方も多いのです。京都・神戸・和歌山などなどのファン客が、お多福堂の和菓子を食べて癒されるために来店されます。きっと道中は頭の中がお多福堂の和菓子の事で満たされていることでしょう。そして買って帰った後は家族や友人と喜びと美味しさを分かち合っている姿が絵に浮かびます。

御菓子司お多福堂 その幸せを分かち合っている一番の和菓子は「あえ餅」白いお餅と蓬のお餅をきな粉取りして特製の柔らかい漉しあんを表面にあえています。添加物等は使用しない本物の味がここにあります。そして「焼き餅」も売れ筋の一つ。中に粒あんが入ったタイプでこれも素朴で唸る一品です。これがお父さんの逸品なら実里さんの新しいタイプの和菓子も見逃せません。「ほうじ茶ロール」「栗パイ」「抹茶ムース」など従来の和菓子の枠にとらわれない今の感性で作り上げた逸品が、歴史あるこの店に見事なまでにマッチングしてお客様を楽しませています。その証拠にインスタグラムで積極的にアップデートを重ね、従来のお客様とはまた別の感性豊かな若い世代を上手く取り込んでいます。

 和菓子職人として日夜頑張ってきたお父さん。それを笑顔で支え続けたお母さん。二人の姿を見て育った実里さんはその両方のスキルを兼ね備えた魅力ある和菓子職人です。兄妹の協力の元これから先さらに躍進することは間違いありません。そう、どんな困難に遭おうとも彼女の笑顔は最高で人を引き付ける魅力があります。「伝統を守りつつ、新しい事にチャレンジする」というのは彼女の言葉で、そしてお多福堂の未来そのものです。この先又百年、二百年続いていく和菓子屋と確信しました。

 全菓連青年部部長・松田明

店舗データ

御菓子司お多福堂御菓子司お多福堂
〒579-8001 大阪府東大阪市善根寺町4−2−46
電話番号 072−981−3221
営業時間 7時~18時 年中無休(正月・お盆は休み期間有)
代  表 木下実里