次の世代へ技術を継承
「つなぐ」ことの責任
【つなぐ】同じ言葉でも漢字で表すと意味合いが少しずつ異なる。
表現豊かな大和言葉と、渡来した漢字、二つの言語を絆ぐことによって生まれた日本語。そんな「つなぐ」をキーワードにしたお話。
私が日本菓子専門学校を卒業後就職した「億万両本舗 和作」では、技術面や菓子哲学はもちろんの事、先輩後輩、業界関係者との人脈など、今の菓子職人人生にとって掛け替えのない出会いと学びの場でした。
工場を任される立場になったとき、それまで経験したことのない立場に戸惑いましたが、後輩をフォローし工場全体を円滑に回すためどう振る舞えばよいか思案し、モデルとして思い浮かんだのは、自分の両親でした。
端的に表すと、父親の安定感と母親の安心感。その両面を巧みに使い分けどんな場面でも動じない安定感と、問題が起こったときには、万全のフォローによる安心感を与えられるように心がけました。
今の時代、従業員同士であっても勤務外の付き合いが希薄になりつつありますが、業務の円滑化には安定感と安心感という要素を意識することで、人との繋がりが生まれ、チームとしての力が増した様に感じました。
修行中は数多くの技術を上司や先輩から教わります。
技術は見て、考えて、実践。この三段構えで少しずつ自分の技術へと昇華されていく。
技術というモノの本質は、少しの工夫やコツを凝縮したもので、延々と受け継がれていくことで醸成された英知の結晶。
そうして受け継がれてきた技術は一度途切れてしまうと、そうそう元には戻らない。テクニック的な部分はマニュアルとして残すことができても、口伝に内包される空気感、細かなニュアンスというものは容易く失われてしまうものだと思います。そう考えると技術の中にはコツやテクニックと共に「想い」も含まれているのではないでしょうか。
複雑な要素が絡み合い育まれた技術という名のバトンは歴史的な価値を持ち合わせ、それが縁あって今自分のところに有る。それは決して自分だけで留めることなく、次の世代へと継承していくのがバトンを渡された者の使命だと思います。
三浦綾子著の「続氷点」の中で引用された名言に「私たちが一生を終えて この世に残るものは 生涯をかけて 集めたものではなく 生涯をかけて 与えたものである」
後輩だけでなく、学校に依頼された実習や放課後のお菓子教室などで接する子どもたちにも、私の持っている知識やお菓子作りのコツ、また物の考え方のヒントなど今まで自分自身が教わり、与えていただいたバトンを次の世代へとしっかりと繋いで行くことが現役世代の責任だと感じています。
コロナ禍の中、様々な業種で苦境に喘いでいる事業者も多くあると思います。苦しい今の少し先にある未来、明るい世界が来ることを願って今日も愚直に仕事に取り組み、「人・縁・技術・時間」それぞれのつながりを意識していこうと思います。
三重県菓子工業組合亀山支部支部長・伊藤正博