義理チョコ文化は消え去るのか
感謝を伝える贈答文化の将来
読者の店で単品売り上げの8割が消えるという経験はあるだろうか。コロナ禍で規制を強いられた飲食店の話では無い。弊社が十五年ほど前に発売した「しもつけショコラ」のことである。
和菓子屋がチョコ?いやいや、まんじゅう製造機レオン社の火星人を応用したチョコ餅なのだ。あんの代わりに、甘さを抑えた生チョコを。生地の代わりに餅を。火星人で包餡したら、オランダ産のビターなココアをまぶす。よく見る製品とはいえ弊社独自のこだわりはある。通常水挽きの餅粉を使うところを、あえて乾挽にこだわり、荒い粉にして独特の歯ごたえを出している。それを可能にするのが、札幌フジ社製の蒸練機だ。手前みそではあるが、柔らかいだけのチョコ餅とは違いをだしていると思う。
栃木では、タウン誌のモンミヤが楽天市場内に出店、ホームページの制作から受注管理を請負い、弊社のような田舎の店をサポートしてくれる。そして、モンミヤ社の考案したセールストークが「義理チョコ好適品!」であった。これは見事にあたった。餅菓子部門というくくりではあるが、二月三月は七年連続全国一位の販売数。北海道や鹿児島の離島からも注文を頂いた。
予兆はあった。コロナ禍で五〇箱前後の職場向け注文が激減。しかし、巣ごもりで個人向けの受注は堅調。さて、五類になり戻ってくるはずの大口注文が消えてしまったのである。外資系チョコ会社の「日本は義理チョコをやめよう」との広告が引き金になったのか?テレワークが生んだ人々の距離が虚礼を見直す風潮を広め、そのわかりやすい標的が「義理チョコ」だったのかもしれない。
菓子業界から節句の賑わいが消えて久しい。
感謝の気持ちを伝える贈答文化の将来は暗い。
お中元やお歳暮も細っていくのだろう。でもそれでいいのだろうか。バレンタインに伝えるのは「愛」だけとは限らない。仲間への感謝の気持ちを伝えることが、すべて虚礼とは言えないだろう。
十年後に、あらゆる贈答文化が廃れていたとしたら、こう思うかもしれない。あの時、義理チョコを葬ったツケがきたのだ。義理の名前が悪ければ、感謝チョコに変えてもいい。
あの時ささやかな贈り物文化を残しておけばよかったのだと。
栃木県菓子工業組合専務理事・齋藤友紀雄