各地の菓子店探訪
長崎県菓子店の投稿

長崎県・五島の銘菓を未来へつなぐ「御菓子司はたなか」

故郷で受け継ぐ「治安孝行」の心

畑中隆仁さん

 長崎港からジェットフォイルで約90分。五島列島最大の島、福江島に店を構える「御菓子司はたなか」。大正元年に創業し、今年で113年を迎える老舗です。長崎菓青会に2024年に入会した畑中隆仁さんが、家族とともに伝統の味を守り、未来に向けて新しい風を吹き込んでいます。

  「はたなか」は単なるお菓子屋さんではありません。「有限会社観光ビルはたなか」として1階には和洋菓子店とレストラン、2・3階には会議、会食ができる宴会場・イベントホールを備えた、地域の人々にとってなくてはならない存在となっています。お菓子作りを担当する隆仁さんと、今年入社した和食料理人の弟さんが、それぞれの専門性を活かして社長であるお父様を支えています。

 はたなかの代表銘菓は、福江島に伝わる念仏踊り「チャンココ」にちなんで名付けられた「治安孝行(ちゃんここ)」です。800年もの歴史があり、地域の無形民俗文化財に指定されているこの踊りは、お盆に先祖の御霊を鎮め、治安をよくする踊りとされています。そんな祈りが込められたお菓子は、上品な甘さの粒あんをもちもちの求肥で包み、香ばしいきな粉をたっぷりまぶした一品です。俵型は、踊り手が首から提げる太鼓を模しており、70年にわたり五島を代表する銘菓として愛され続けています。5年前に包材を変更しパッケージデザインもリニューアル。大都市圏で販売する機会が増えてきたということです。

 ちなみに建物は20年ほど前に建て替えたそうですが、外壁は治安孝行をイメージしてきな粉の色(黄色)にしたのだそうです。いただいた名刺もきな粉の黄色にしていることに気づきました。

 畑中さんは幼い頃からの夢だったパティシエになるため、高校卒業後に専門学校へ進学。神奈川、東京の菓子店で3年ずつ修業を重ねました。この修業時代に学んだのは、お菓子作りの技術だけではありませんでした。いずれ家業を継ぐ身として、「工程全体を俯瞰して見ること」「従業員の何倍も働きその背中を見せること」の大切さを叩き込まれたといいます。

 5年前に地元に戻ってからは、その学びを活かし、専務としてお店を牽引しています。午前中はパティシエとしてケーキを作り、午後は営業や広報活動に奔走する日々。特に、SNSを通じた情報発信には力を入れています。奥様や弟さんとともに、お店の魅力を積極的に伝えています。

治安孝行

 五島での取材を終えた後、心温まるおもてなしを受けました。全面を芝に覆われた五島のシンボル鬼岳や、島の自然を紹介する展示施設を案内していただき、美しい景観を心ゆくまで堪能しました。

 各地の菓子店を訪れるたび、その土地に根ざした個性豊かなお菓子や経営の話から、新たな学びと感動があります。今回お話を伺った畑中さんは、私より一回りほど年下ですが、故郷・五島への熱い思いや将来の夢を語る、若く前向きな姿がとても印象的でした。私もその熱意に刺激を受けました。

 全菓連青年部九州ブロック長・田口一男

店舗データ

御菓子司 はたなか
住所 長崎県五島市中央町7ー20