田中屋せんべい総本家
日本一堅いせんべい
岐阜県西濃地方に位置する大垣市は、枡の生産量、カモミールの栽培量、化石出土種類などなど数多くの「日本一」を有する都市である。中でも一際異彩を放つのは、田中屋せんべい総本家が作る「日本一堅いせんべい」と言われる「みそ入大垣せんべい」だろう。
田中屋せんべい総本家は、幕末期の安政6年(1859年)に大阪で煎餅つくりの修行を終えた初代田中増吉によって創業し、時を同じくして代表銘菓である、みそ入り大垣せんべいが考案された。小麦粉、砂糖、糀みそ、ゴマという極めてシンプルな原材料から作られる大垣せんべいの中には、技術の研鑽と品質の追求が凝縮されており、小麦粉は岐阜県産、みそは大垣城主であった戸田家と共に尼崎から大垣へ移った丸山味噌店で大垣せんべい用に作られた白みそを使用。使い込まれ、しっかりと油が馴染んだ煎餅型で一枚一枚丁寧に手焼きで焼かれたせんべいは、香ばしい香りと艶やかな光沢を放つ。この光沢は手焼きでなくては得られないもので、過去に生産効率を上げるため、機械化に挑戦した事もあったが、焼き上がったせんべいを見て4代目が「このような艶の無いせんべいは、お客様には出せない!」と即座に機械化を中止したという逸話が残るほど。吟味された原材料と熟練の技によってこそ、飽きの来ない風味豊なせんべいが誕生する。
日本一堅いせんべいは、焼きたての熱々を丁寧に四ツ折にし、圧し冷ましたもので、流石は日本一。なかなか歯が立たない。しかし物心がついた時からこの堅さで育った大垣市民の中には、わずか25秒で食べ切る方や、還暦を過ぎてもなお、健康な歯で四ツ折を召し上がられる方もいらっしゃるという。
現在、専務として田中屋せんべい総本家を取り仕切る6代目田中裕介氏は、いつまでもお客様に認め続けられる価値を提供する事を仕事の本質と見定め、新商品開発にも余念がない。中でも大垣藩出身の蘭学者であった宇田川榕菴(うたがわ ようあん)によって考案されたという「珈琲」に因んで一年以上かけて開発された「オオガキ珈琲せんべい」は、生地に練りこまれた珈琲の豊かな香りと優しい甘味が特徴で、食べ始めると手が止まらなくなる美味しさ。町の歴史や文化を巧に取り入れ、新しい煎餅の世界を展開する田中裕介氏は、今後も野菜を使ったせんべいや、お酒に合うせんべいなど、さまざまな新商品構想を持ち、常にお客様に新しい価値を提供し続けている。この姿こそが、150年以上の歴史を紡いできた田中屋せんべい総本家の文化なのだと実感した。
中部ブロック長・槌谷裕哉
店舗データ
田中屋せんべい総本家
本店:岐阜県大垣市本町2-16
電話:0584-78-3583
HP:http://www.tanakaya-senbei.jp/