「実践進化論」
「思い立ったが吉日」で変化に対応
今回福岡より紹介するのは、北九州市小倉南区にある「ひですけ餅本舗中村屋」さんです。1966年初代中村日出助氏により創業され、現在は2代目秀規氏が店主を務めます。閑静な住宅街にある店舗は、地元に密着した和菓子店です。
店舗のある若園地区はかつて、御多分に漏れず高齢化が進み、空き家や空き店舗が増えつつある状況でした。そこで店の将来はもちろん、まちの存続にも危機感を覚えた秀規氏はある行動を起こしました。まず手始めに子供たちに地域に対して愛着を持ってもらうため、地元の小学校から地域の通りの名前を公募しました。そうして名付けられた二つの通りの名を冠した商店街を、このご時勢に新たに立ち上げたのです。年会費は徴収せず、費用がかかる都度参加者から少しずつお金を徴収する制度が功を奏し、徐々に空き店舗が解消されていきました。そして空き家には、不動産業者を通さず大家と借主が直接契約出来る環境を作り、地元の大学生が割安で空き家を借りられるようにしました。またその大学生達を巻き込み、障碍者も参加出来る新たなイベントを立ち上げ、生活弱者も住みよいまち若園を作りあげつつあります。回り道にはなるが、まちづくりが商売の存続にもつながると考えたのです。
進化論で有名なダーウィンはこう言いました「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである」と。「思い立ったが吉日」がモットーの秀規氏は、よく周りから「行き当たりばったり」と批評されると言います。しかし同氏は「行き当たり」でしっかりその場の変化に対応しているのです。地域の発展はもちろん、お菓子作りにおいてもそれは実践されています。当初、秀規氏は菓子店を継ぐつもりはなかったそうです。結果として継ぐことになってしまったのですが、変化に対応する同氏は次々と新しいお菓子を開発します。その代表が「ひですけ餅」と「八重の桜最中」です。両親の名前を冠したお菓子で、店の看板商品となっています。両親の名前を使うことは、親への恩返しの意味もあると同氏は語ります。この恩返しの気持ちは地域に対しても同様で、大きなモチベーションとなっているそうです。最近ではひですけ餅に抹茶をまぶした「ひですけ抹茶まみれ餅」が話題です。情報誌掲載に合わせたバタバタの開発でしたが、結果としてとても良い商品が出来たそうです。時間的に追い込まれた状況で、同氏の対応力が発揮された結果ではないでしょうか。
ひとを愛し、まちを愛する秀規氏には、関わる人々の笑顔が何よりの活力とのことです。「自分は所詮ただの菓子屋」と謙遜しますが、その周りにあふれる笑顔を見るにつけ、同氏の今後の益々の活躍に期待せざるを得ません。
福岡県菓子工業組合理事・原田茂樹