各地の菓子店探訪
山口県菓子店の投稿

日本海に面したまちでお菓子と向き合う

八代淳一さん 紺碧の海と緑豊かな阿武町奈古で創業106年の八代峰月堂。初代、八代市介氏が創業しました。店主を務める八代淳一さんは67歳。東京製菓専門学校を卒業後、都内の店で修業したのち、隣町の萩市に洋菓子店「ポ・ヤシロ」を構えました。現在は和菓子と洋菓子、道の駅阿武町でカフェと焼きたて饅頭を販売しています。ヤシロと言えば、お菓子。地元で知らない人はいないお店です。

 東京で学んだものをふるさと萩に、という気負いはなく当時の菓子業界の環境から洋菓子に進む道を選び、道の駅阿武町への出店など地元の要望に応えていたら店が増えていました。時代は変わり顧客の声は多様化していくけれど、いろんな要望に応えることによって自分の技術も人間性も進歩していくものだと信じている、とのことでした。

 とにかくお菓子を作ることが好きな八代さんの強い思いのつまった商品が蒸気船まんじゅう。創業から続くこの商品のいわれは日露戦争時、日本海に露の蒸気船(軍艦)がたびたび出現し、これを見た人たちが「焼いて食ってしまえ」と気勢を上げたのが始まりと言われています。祖母からの遺言は炭火で焼くこと。今では希少となりましたが、土日だけ道の駅で自ら炭を熾し蒸気船型を使って焼き、出来立てを提供しています。蒸気船の形は地域の人に身近なものでもあり、蒸気船もなかとして地元名産の夏みかんとキウイであんを作り、販売しています。チャレンジ精神で作った大根のお菓子はさすがに売れなかった、と笑い話にします。

蒸気船まんじゅう ポ・ヤシロは頼りになる洋菓子屋さん。手頃な価格のケーキと焼き菓子、パンまでも並びます。毎月1回、保育園にもケーキを用意します。季節を感じてほしいと低予算ながら趣向を凝らして子供たちに喜んでもらっているそうです。他にもイラストケーキはわずかな追加料金で引き受けています。断ったら困るだろうから、と持ち込みのもち米で餅も作ります。このようにお客様の要望に応えすぎて経営者としてはどうかと思うけれど…と謙遜されます。

 最近のイチオシは萩焼ちゃわん。400年の伝統を誇る萩焼の特長をバウムクーヘンで表現しました。ホワイトチョコでなくフォンダン(すりみつ)を掛けて素朴な色合いに仕上げたお菓子は飾れば間違えそうなほど本物とそっくり。先のお伊勢さん菓子博でも受賞され、またバウムクーヘン博覧会から声が掛かるほどの商品です。

 歴史ある店だけに「基本的なものはていねいにしながら新しいものを取り入れていく」ことを心掛けながら「ぼちぼち」やっていきますとのこと。最後に後継者は?と尋ねたらまんじゅうを焼きながら倒れることができたら本望だと。体の続く限りお菓子と向き合い、残せるお菓子は残したいと話す八代さんでした。

 山口県菓子工業組合事務局・安光このみ

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