若者から感覚を学ぶ
出口治明社長の講演
西欧に「老人から知恵を学び、若者から感覚を学ぶ」という諺があるが、思い当たることがなかった。
ライフネット生命の出口治明社長の講演を聴く機会があり、老人と若者の感覚の違いについて語る場面に出合った。同社の広告企画に20代社員が応募した。保険額を「何千万」と書いて豆を入れた皿を並べ、鳩が食べた皿の額の保険に入るという趣旨。その企画を聞いた60歳代の自分はふざけた内容だと激怒したが、プランナーの「客は20歳代。硬い頭ではいけない。若者は面白いと思って好感度が上がる」という説明を聞き、やらせてみたところネットでの反応が凄かった。悪口は一つもない。
出口社長はそれ以降、若者に事前説明を禁止しているという。知れば反対するだろう。成果が悪かった時に怒ればいいと割り切り、「60歳代の老人に若者のことが分かると思うのは傲慢だ」とさえ言い切っていた。
弊社でも同じようなことを経験した。
お菓子「二十世紀」に注文が殺到したことがあった。神戸市から鳥取市へ出張で来た男性のお客さんが「買って帰らないと家に入れないと娘から厳命されている」と買い求めてる姿があった。50歳代の友人は「私はそうでもないけど娘は美味しく感じるそうだ」と不思議がっていた。
何事が起きたのかと調べてみると、ユーチューブで「二十世紀」が紹介されていることを知った。お皿に載ったお菓子を食べている若い女性の唇と「ぐちゃぐちゃ」いう音が5分ほど流れているだけの画面。時折、「ジューシー」とか「かわいい」「上品」とかの説明文が浮かぶ。タイトルはそのものズバリの「咀嚼音」。
私には気持ち悪いだけだった。咀嚼音に好感を持ったのは若い人だけで、我々の年代はほぼ全員気持ち悪がった。もし、ユーチューバーがこういう画像を流すからと事前許可を求めていたら、冗談じゃないと拒否しただろう。「営業妨害だ」と憤ったかもしれない。
それまでの私は、老人と若者の関係について「時代によって流行が違う」くらいにしか考えていなかった。だから、出口社長の講演を聴いても納得できなかった。
実際に自分の会社の商品を通して若者と感覚の違いを体験できた。私は注文殺到という結果(成果)から入ったから良かった。
今では、60代の人間に20代の感覚が分かるというのは傲慢で出遅れてしまうという出口社長の経営論の一端を理解できる。同時に、若者から感覚を学べという諺も受け止められる気がしている。
鳥取県菓子工業組合理事長・小谷治郎平