各地の菓子店探訪
島根県菓子店の投稿

來間屋生姜糖本舗

出雲産・黒糖製造への取り組み

黒糖と黒糖みつ

 出雲でサトウキビ栽培できるの…。私は、島根県出雲市において「生姜糖」砂糖菓子(和菓子)の専門店を生業として約300年(創業1715)続いている來間屋生姜糖本舗の当主です。私ども「生姜糖」の原料はとてもシンプルで砂糖と生姜です。お砂糖は、製糖メーカーから上白糖を。生姜は、地元出雲産の出西(しゅっさい)生姜を使っています。日々、出雲産にこだわった「生姜糖」をつくろうと考えていました。そうなると「あとはお砂糖だな」と頭の中で考えていました。今から10年前は、まだ砂糖を作るなんて思いもつきませんでした。しかし農水省の外郭団体一般財団法人食品産業センターの認定制度「本場の本物」という認定を2016年に受けたことがきっかけとなり、認定品目の冊子に追加掲載いただけるということで、そのライターの方が、私どもの歴史と出雲の歴史を調べ記事を作られた時、ここ出雲でも昔、サトウキビを栽培されていたことがあると分かりました。それは、『大社の史話』という大社町の歴史を記されている会の冊子、第134号(平成15年3月11日発行)に記載のある「山崎平太郎の砂糖づくり」というページにてサトウキビ栽培がされ、収穫されたサトウキビを製糖し、砂糖として流通していたという事実があったことについての史話でした。これを目にしたことで、私の中では、サトウキビ栽培や製糖がより現実に近いものとなりました。もう一つ、ここ近年の温暖化もあり、ここ出雲でもサトウキビ栽培が可能なのではと思い、まずはサトウキビを植えてみようと、サトウキビの苗を仕入れました。種苗屋さんに依頼、苗を調達。苗といっても、サトウキビの茎部分の節が2つある状態で切り落とされたものが苗となります。こちらを100本仕入れて、生姜農家さんに栽培協力を依頼、2018年に栽培をスタートしました。
 初年度は植え付け時期が遅かったのか、植え付けまでの苗の管理が悪かったのか、芽が出たのはたった2つでした。とりあえず2つの生育を見守りながらも、栽培のことを知っていただきたいと、いろいろな場面で告知しました。地元の特産品の会に当時出雲市副市長藤河正英さんにもお話をしました。この方は農水省から来られた方であり、サトウキビの担当をしていたということもあり、この取り組みに対して非常に興味を持っていただきました。ここから出雲市役所の農林課の方にも話を繋げていただき、その担当者の方も興味を持ち、協力いただけることとなりました。(ちなみに初年度の2つ出た芽は順調に育ち、約2・3メートルの高さまでになり、収穫し翌年の苗として越冬しています)

 さて、芽が2/100では翌年に繋げないということで、苗のところから再スタートすることとなりました。市役所の担当者の方は、当時のサトウキビの苗事情のことを藤河副市長から紹介いただいた農研機構の寺内方克さん(サトウキビの品種改良などに携われた方)、この方からサトウキビ栽培の北限を上げた品種「黒街道」を勧めていただきました。この苗は、高知県幡多郡黒潮町で栽培が行われており、黒潮町に依頼、現地まで行き、「黒街道」のサトウキビそのものを(長いままのサトウキビ)を12月に分けていただきました。持ち帰ったものを越冬させ、翌年2019年3月、再度、生姜農家さんの圃場にて苗を約150本植え付け、8割程度芽が出ました。(成長したものを越冬、カットしたものが翌年の苗となります。)

サトウキビ収穫

 2019年は、夏の日照・高温もあり順調に生育し、11月下旬に収穫、加工を行いました。加工に関しては、出雲では設備が無く、苗をいただいた黒潮町の加工施設で加工(搾り・製糖)を行いました。収穫量は210㎏、その原料から約20㎏の黒糖ができました。残りの収穫したサトウキビは翌年の苗として、別圃場に植え付け・圃場が広がっています。これをきっかけに、今シーズンまで6年サトウキビ栽培を継続しています。3年目(加工を始めて2年目からは、760㎏収穫し、黒糖と黒糖密に加工し、パッケージ、製品を試験的に販売しています。この時に出雲サトウキビ栽培研究会を立ち上げ約10名の有志にてこの取り組みを継続的に行っています。今年も12月初旬には約1tの収穫を行い、製糖する予定です。

 株式会社來間屋生姜糖本舗代表取締役・來間久