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体験講座で伝える和菓子の魅力

季節のねりきり講座

 昭和5年創業の和菓子専門店であります当店での最近の傾向といたしまして、いわゆる〝SNS映え〟〝エモい〟といった感性から、今までこのジャンルに縁遠かったであろうお客様が、和菓子、特に「季節のねりきり」を目当てにご来店いただく機会が増えております。その流れもあってでしょうか。〝実際に作ってみたい〟というご希望から『季節のねりきり講座』の講師のご依頼を頂く機会が増えており、地域の公民館活動として一般の方々を中心とした講座や、小学校 中学校 高校でのキャリア学習の一環としての授業など、様々な立場の様々な年齢の皆さんに、日本の四季を大切にした伝統的なねりきり細工を体験していただいております。

 あくまで未経験の方を対象としておりますので、餡作りをイチから始めるような本格的なものではなく、あらかじめこちらで用意したねりきり餡で中餡を包餡し、布巾での絞りでしたり、スプーンを使ったさじ切りでしたりと、ご家庭内に身近にあるアイテムを利用して四季折々を表現する技術をご披露し、受講者の皆様には粘土細工の感覚で成形を楽しんで頂くのですが、そこはやはり初めての体験ですから、なかなか思うように行かず四苦八苦されながらも、最後にはその方なりのお菓子を完成させ、お喜びいただくと同時に、成形技術の難しさを実感しておられるようです。

 また、講座では技術のみをお教えすることに終始することなく、和菓子が大切にしている『五感で楽しむ』という概念についてもお伝えさせていただいております。(ご同業の皆様にはお馴染みのお話で恐縮でございます)五感とは言うまでもなく、視覚、味覚、臭覚、聴覚、触覚のことで「視覚→見た目」「味覚→お味」「触覚→舌触りや手触り」「嗅覚→香り」といったことは容易に想像できますが「聴覚」で楽しむとはどういうことなのか、ほとんどの受講者がピンときません。そこで「聴覚で楽しむ」とは、〝和菓子にはひとつひとつに職人が思いを込めた素敵な菓銘があり、その響きを楽しむということである〟ということをお伝えします。菓子の意匠を考えるのと同じように、場合によってはそれ以上の産みの苦しみを味わうこともある「菓銘」にも注目していただくことは、お客様にとっても楽しみが増えると同時に、なにより我々職人にとっても張り合いとなります。

 ご要望から始まった『季節のねりきり講座』ですが、私にとっても〝人様に教える〟という責任から、自らの技術や知識を改めて見直す良い機会となりましたし、お店といたしましてもご贔屓筋へのサービスとともに新規のお客様の獲得につながることも少なくないことから、今後はさらに積極的にこのような機会を設けさせていただき、参加されたみなさまにはより深い部分での和菓子の魅力をご理解いただければ幸いですし、これを入り口に広く和菓子業界に興味を持って頂ければと願っております。

 上田菓子工業組合・有限会社千野菓子店代表取締役・千野雅芳

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