「志摩のさわ餅」
㈲竹内餅店
有限会社竹内餅店の竹内博司と申します。当店は三重県志摩市に店舗を構え、ここ志摩市に古くから伝わる伝統の餅菓子、「さわ餅」をメインに餅と和菓子を製造販売しております。
今回は、当店の看板商品であり、三重県の中南勢(三重県は令制国伊勢国の由来により中部地方を中勢、南部地方を南勢と呼びます)で広域的に製造販売されている「さわ餅」を紹介させていただきます。
さわ餅は、薄く伸ばした餅を四角に切り、真ん中にあんこを挟んで二つ折りに包んだもので、江戸時代の天保年間からの歴史があり、三重県の中南勢地方が発祥の地とされています。さわ餅という名前の由来は諸説あり、沢の水を使って作ったからとも、地域のお茶会でふるまわれ、「茶話餅」が変化したとも言われていますが、志摩地方においては、志摩市磯部町に祀られている伊雑宮(いざわのみや)の竹取神事で使われる竹竿をモチーフにして作られたとする説が有力です。
伊勢神宮内宮の別宮であるこの伊雑宮で毎年6月24日に行われる御田植祭は、日本三大御田植祭のひとつであり、「磯部の御神田(いそべのおみた)」として国の重要無形民俗文化財に指定されています。「磯部の御神田」では勇壮な男衆が竹を取り合う「竹取神事」が行われ、取った竹の一片を供えて豊漁祈願をすることから、古来より志摩地方では竹は有難いものとされてきました。
その竹に似せて作られたのが志摩のさわ餅の始まりで、竹竿の「さお」からさわ餅になったと伝えられています。よもぎを使った緑色のさわ餅は竹の節のようで、よもぎのさわ餅を縦に並べるとまさに竹竿に見え、「いざわのさお餅」がさわ餅に変化した、という説が有力というのも納得できます。
このように、さわ餅は地域によって由来も様々で、広域的に伝わってきましたので、形状は同じでも各地域のお店ごとに細かな違いがあり、さまざまな特徴があります。
当店のさわ餅の特徴は、まず、餅粉ではなくもち米を搗いて生地にしていること。生地に餅本来の弾力を感じていただけると思います。次に、生地にはほんのりと塩味を利かせてありますが、これは、海沿いの街である志摩市の人々は塩気のあるものを好むところからきています。最後に、餅に歯応えがあるために食感として調和するように餡は粒あんではなくこしあんを使用。これにより、滑らかな舌触りとモチモチ食感が共に楽しめます。
三重県には当店以外にも数多くのさわ餅のお店がありますが、共通して言えるのは「さわ餅は美味しい!」ということ。三重県の中南勢へお越しの際には、この伝統ある和菓子「さわ餅」を是非ご賞味いただければと思います。
三重県菓子工業組合英虞支部長・有限会社 竹内餅店・代表取締役・竹内博司