各地の菓子店探訪
鹿児島県菓子店の投稿

味覚探求の歴史

~モン・シェリー松下~

チョコレンガ

 「次の出店はいつ?必ずまた来てね」デパートの地下で、年配の女性にそう声をかけられているブースには、「チョコレンガ」が並んでいました。

 その菓子店は、いちき串木野市に本店のある「モン・シェリー松下」。鹿児島市内、薩摩川内市、伊集院町などにも店舗がありますが、年配の方にとって、交通の便のいい鹿児島市中心部にあるデパート内で購入できる機会は、とても嬉しいものだったのでしょう。

 2021年に100周年を迎えた「モン・シェリー松下」の歴史を紐解くと、1921年に初代が「菓子処松下屋」として和菓子店を創業。地元初の菓子店として人気を得、安定した経営を積み重ねました。そして1965年高度成長の中、二代目が跡を継ぎ、県内外のスーパーやデパートを相手に業績を伸ばし、卸が売り上げの9割を占めるに至り、製造・卸販売に注力したそうです。しかし県外大手メーカーの進出により、卸業は徐々に苦戦を強いられていきます。

 そんな中、三代目の明弘氏(現取締役会長・組合副理事長)は、洋菓子職人を志し、鹿児島、パリ、福岡で修業し、1984年に心機一転「モン・シェリー松下」として串木野に洋菓子店を開業。当初はなかなか軌道に乗らなかったそうですが、開業2年目のクリスマス商戦で転機を迎えました。苺の価格高騰により、使用を控える菓子店の多い中、赤字覚悟でパンフレット通りに、苺をたっぷり使用したクリスマスケーキを販売したところ、その正直な菓子作りと美味しさが評判を呼び、経営も安定し、ついには工場も増設、店舗も増えていきました。

 2003年には、先に紹介した代表銘菓「チョコレンガ」が誕生。現在では、定番だけでなく、季節ごとに販売される限定フレーバーのチョコレンガもお客様に楽しみにされています。

ちりめんぬれせんべい

 また2012年に組合主催で実施された「かごしまお菓子コンクール」では、同社の「薩摩ポンダリン」が県知事賞を受賞。そして2017年の三重菓子博では「ちりめんぬれせんべい」が名誉総裁賞を受賞しました。

雄太氏、明弘氏、考太氏

 四代目となった長男の考太氏は、原点ともいえる和菓子職人、また次男の雄太氏は洋菓子職人。初代の「ときを読め、時代を見ろ」の言葉と先達へのリスペクトを忘れず、時代に合わせた柔軟な変化と、変わることのない正直な菓子作りをもとに、二本の大きな柱として、次の100年を目指し、更なる飛躍発展を遂げることでしょう。

 鹿児島県菓子工業組合事務局長・惠島理子