各地の菓子店探訪
鹿児島県菓子店の投稿

御菓子司鳥越屋

伝統と地元への深い愛と

御菓子司鳥越屋

 鹿児島市内の喧騒を後にして、国道226号線をひたすら南下。

 やがて車は、波穏やかな錦江湾を左手に、右手には迫りくる山裾を国道に並走する指宿枕崎線が走り、運がよければ、人気の観光特急列車「指宿のたまて箱」と並走することもある海岸道路へ。巨大な石油タンクの立ち並ぶ壮観な眺めの喜入石油基地も通り過ぎ、出発してから約1時間半で、南国ムード漂う指宿市に到着しました。訪ねたお店は「御菓子司鳥越屋」です。

 種子島でポップコーンを販売していたという曽祖父が、1919年にこの地に店を構え100数年、現在の店主は4代目の鈴木芳乃さん。弾ける笑顔が魅力的な方です。それもその筈、令和3年には指宿市の観光親善大使「いぶすき菜の花レディ」として活躍していました。指宿市を離れていた時期もあったそうですが、よそに出たからこそわかる地元の素晴らしさ。年齢とともに地元愛も深まり、地域観光にも積極的に関わるようになったそうです。

鳥越屋銘菓

 代表銘菓の「いぶすき路」は、中はしっとり優しい甘さのサツマイモ餡、皮にまぶしたシナモンとの相性は抜群で、県内外に多くのファンを持つお菓子です。

 そして、指宿に来たら欠かせないというほど人気がある「よもぎ餅」。これには月桃の葉が敷かれていますが、月桃はここが北限と言われ、指宿では庭先に月桃が植えられている家が多く、指宿を象徴する植物で、昔から親しまれていたそうです。また「よもぎ餅」は指宿市内のお菓子屋さん共通のお菓子で、各店それぞれに塩梅や工夫があり、それぞれが固定のファンを得ているところも面白いと話してくださいました。うちが一番!と言われないところが素敵ですよね。

 取材しているときに年配の方が訪ねて来られ、お菓子を買うでもなく、話をして帰られました。芳乃さんは、「それも役割だと思っている」とおっしゃいます。昔からここにあるということは、地域の拠り所でもあると。

 今では、お菓子だけでなく、指宿の素材、調味料、原材料と製法にこだわったお弁当や調味料などの商品も販売しています。地域の子育て世代、高齢者は特に助かることでしょう。

 イベントや情報にもアンテナを張り、指宿市の和菓子、食文化、郷土文化や伝統を大事にしつつ、その中でオリジナルなものを出していきたいと語る芳乃さんの笑顔は、ハートフルなおもてなしの街指宿の象徴のようだと思いました。

 鹿児島県菓子工業組合事務局長・惠島理子