各地の菓子店探訪
福井県菓子店の投稿

福井が誇る羽二重餅を守り、伝える。

福井市「羽二重餅總本舗 松岡軒」

羽二重餅

 令和六年三月十六日、北陸新幹線延伸開業。

 先人たちからの夢の新幹線が福井にやってきた。たくさんの恐竜がお出迎えする福井駅から徒歩十分のところにあるのが、創業明治三十年、「羽二重餅總本舗 松岡軒」。

 福井のお土産品の筆頭株と言えば「羽二重餅」。羽二重餅は、餅粉にグラニュー糖と水飴を混ぜて練ったほのかに甘い餅のことで、求肥をはかなくしたような食感が魅力である。

 この和菓子が生まれるに至るうえでは「繊維の歴史」を避けては通れない。繊維王国である福井はかつて絹織物の産地であった。明治時代に羽二重織の技術が桐生から入ってきた。薄くてしなやかで、光沢のあるのが羽二重織の特徴である。

 初代淡島重兵衛は羽二重織の一種、奉書紬を扱う織物業を営んでいた。しかし、二代目淡島恒は菓子業を志し、東京で十年間の修行を経て、明治三十年に現在の松岡軒を開業した。先代が営んできた織物業のつながりを残す意味からも、羽二重織物のきめ細かさ、柔らかさ、つややかさをお菓子で表現できないかと試作を重ね、明治三十八年にお菓子の品評会で「羽二重餅」と名付けた餅を出品し金賞を受賞した。これが「羽二重餅」の起源である。以来、福井に出入りする商社の人たちの間でお土産品として羽二重餅は定着していく。戦後においては全国で開催される「物産展」に出展し、世に知れわたった。

 松岡軒では、保存料を使わず、国産の原料にこだわった羽二重餅、羽二重どら焼、羽二重もなかと三商品を定番としている。

抹茶パフェ

 昨年四月には本店に「和カフェ」を併設しリニューアルオープン。作り立ての羽二重餅、どら焼をアレンジして、本店でしか味わえない商品を提供している。人気商品はこだわりの「抹茶パフェ」。甘さ控えめで男性の方にも人気の商品となっている。夏は、これまた明治時代から伝わる鉋で削るかき氷があり、「福井の夏の風物詩」となっている。

 六代目店主は、二五年にわたり国会議員の秘書をしていたという意外な経歴の持ち主。コロナ禍を機に、新幹線開業や守るべき伝統と向き合う時間ができ、与えられた使命に気づき事業承継を決意した。

羽二重餅總本舗 松岡軒

 「できるだけたくさんの方に福井の良さを知っていただきたい」という想いで、カフェでの商品提供には、越前焼・越前漆器の作家さんと一緒に考え、制作した作品を使用している。和モダンな店舗デザインは、二本の縦糸に一本の横糸で織られる羽二重生地をイメージした格子がシンボルになっている。「福井が絹織物発祥の地であることも知って欲しい」、「五感で福井を感じられる場」という想いの店舗となっている。六代目の挑戦はまだ始まったばかりだ。

 福井県菓子工業組合・淡島智子