地域とともに この12年の歩み

前回の寄稿から十二年の歳月を経て
前回、菓子工業新聞の本コーナーに寄稿してから十二年の歳月が流れました。あの原稿の締めくくりには、「これからは自店の繁栄だけでなく、地域の発展にも貢献できる店と経営者を目指して努力していきたい」と記しました。久しぶりにその文章を読み返し、蒸しまんじゅうにかけた当時の熱い思いに少し気恥ずかしさを覚えるとともに、現在の自分があの頃に描いていた理想に、どれほど近づいているのか――そんな問いを改めて自らに投げかける機会となりました。

当時の思いと取り組み
私が事業を営む群馬県みなかみ町は、温泉地として知られ、弊社も主に観光客の皆様に向けて商品を展開しています。当町の菓子組合には7店舗が加盟しており、各店が異なる主力商品を持っています。温泉まんじゅうはもちろん、生どら焼き、生大福、バウムクーヘン、本格チョコレート、チーズタルト、さらには〝大トロ牛乳〟といった飲むスイーツまで、バリエーションの豊かさと高い品質には自信を持っています。観光客が土産選びに迷ってしまうほどの充実ぶりです。まんじゅうしか作れなかった以前の私は、新しい洋菓子系土産品の勢いに押され、落ち込むこともありました。しかし、蒸しまんじゅうの可能性はまだ十分にあると信じ、その魅力を引き出す商品づくりに打ち込んでいました。
試作を重ねた末、和菓子に洋の要素を融合させた新商品「冷やしまんぢふ白毛門」の開発に成功し、2016年8月に販売を開始しました。紅茶の茶葉を粉砕して生地に練り込み、冷やしても舌触りの良いなめらかなミルクあんに、オレンジピールをアクセントとして加えた点が特徴です。若い女性層やイベント販売で好評をいただき、着実に実績を築くことができました。
さらに価格設定において温泉まんじゅうは競合他店との兼ね合いが避けられませんが、白毛門のようなオリジナル商品は比較的強気の価格を設定できることに大きな意義がありました。この考え方は現在の商品開発にも通じており、最近では競合が少なくSNS映えする「飲むわらびもち」が、売上や利益率の向上に貢献しています。

理想と実践の歩み
「自店の繁栄だけでなく、地域の発展にも貢献できる経営者に」という理想は、少しずつ形になってきました。地元菓子組合長として、日本百名山・谷川岳の山開きイベントでは、東京発の夜行電車で「日本一のモグラ駅」こと土合駅に真夜中に到着した乗客の皆様へ、登山のお供として菓子を配布する催しを十年来続けてきました。また、みなかみの自然を活かしたトレイルラン大会では、エイドステーションへ製品を提供するなど、観光産業への支援を継続しています。加えて、本業とは別に異業種の地元有志6名とともにまちづくり会社を設立。空き店舗問題への対応や商店街の活性化に取り組むほか、近年では都市再生推進法人に認定され、自治体からの指定管理業務も受託するなど、小さな温泉地・みなかみ町の未来を支える具体的な行動にも参画しています。

未来の自分へ
この十二年間には、コロナ禍など社会全体に大きな変化もありましたが、理想の経営者像に向かって少しずつ歩みを重ねるなかで、本年令和7年7月より群馬県菓子工業組合の理事長を拝命いたしました。十数年後、またこの新聞に寄稿する機会があるとするならば、そのとき胸を張ってこれまでの歩みを振り返ることができるよう、これからも初心を忘れず邁進してまいります。
群馬県菓子工業組合理事長・水上支部長・沼尻好彦
全国菓子工業組合連合会