あわらの小さな和菓子屋
2代目店主の独り言

私たちの店があるあわら市は、福井県の最北部に位置し、「関西の奥座敷」と呼ばれる明治時代から続く「芦原温泉(あわらおんせん)」、北陸新幹線の延伸により観光客は大きく増加しました。町を少し離れるとのどかな田園風景が広がり豊かな水と土地に恵まれた農産物の宝庫でもあります。四季の移ろいを感じながら和菓子づくりができるのは、この土地ならではの魅力です。
私はそんなあわらで育ち、高校卒業後日本菓子専門学校を卒業し富山の老舗和菓子屋で修行を積んだのち、1988年父の跡をつぎました。修行先の社長さんからは「製餡をすることで他店との差別化が出来る事。手間はかかるけど食べて美味しい」と繰り返し言われ、その教えは今も私の和菓子づくりの軸になっています。小豆を丁寧に炊き上げた自家製餡をすべてのお菓子の基本にしています。甘すぎず風味豊かでなめらかな餡は、お客様からも「口当たりが良く美味しい」とうれしいお言葉を頂いています。4月23日から5月2日の間に吉崎御坊で「蓮如忌」という行事が行われます。これは浄土真宗を全国に広めた蓮如上人の命日(4月23日)にちなんだ法要であわらでは毎年多くの参拝者でにぎわう地域に根付いた大切な行事です。当店の酒饅頭も毎年境内で販売していただいて、地元の方はもちろん遠方から訪れる方にも旅のお土産の定番として喜ばれています。又、福井の冬の定番のお菓子と言えば水ようかん。うちの水ようかんは、餡の炊き方にこだわり滑らかで自然な甘さに仕上げています。こたつに入りながらご家族みんなで食べるのが福井流、贈答品としても人気で冬になると地元のもち米で作った丸餅と共に全国発送の注文が増えます。

イベントにも積極的に参加しています。2014年から始まった「ちはやふるWEEK IN あわら」のイベントでは、全国各地からたくさんのファンの方々が訪れました。作品に登場する「綿谷新」があわら市出身という設定もあり、市内全体が盛り上がりました。当店では、漫画にも登場するキャラクター「スノー丸」を作者、末次由紀先生の直筆イラストを元に焼き印を作りスノー丸どら焼きを販売しました。用意した分は完売し新たに1600個追加するほどで、想像以上の反響に驚きました。若い世代や和菓子に普段親しみのない方にも興味を持っていただいて、作品と市そしてお菓子が繋がった特別な体験として今でも心に残っています。又昨年に続き今年も将棋の竜王戦が開催されます。「勝負スイーツ」コンテストにも応募します。全国の注目が集まる舞台でこのような機会に恵まれて大きな励みになります。和菓子を取り巻く環境は決して楽ではありませんが、亡き父が夢を形にしたこの店を守りこれからも餡にこだわり地域の皆さんと共に歩む和菓子屋でいたいと思います。
福井県菓子工業組合金津支部組合長・嵯峨徳幸
全国菓子工業組合連合会