各地の菓子店探訪
三重県菓子店の投稿

揺るがぬ地盤で守る老舗の味と、七代目が描くこれから

~菰野町「岩嶋屋」 創業135年、次代を担う若手職人社長の挑戦~

店舗とご本人

 三重県三重郡菰野町に店を構える「岩嶋屋」は、明治24年創業、135年の歴史を誇る老舗和菓子店である。御在所岳の麓、町の旧道沿いにある店舗に入ると、「昔ながら」と「今どき」が心地よく調和した空間に、さまざまなお菓子が並ぶ。

 岩嶋屋の代表銘菓といえば、創業時から変わらぬ製法を守る『酒素うす皮饅頭』だ。麹を加えた生地で自家製の粒あんを包み、ホイロで発酵させてから蒸し上げる。もう一つの銘菓『ちんころ』は、菰野町の特産である「まこも」の粉末を加えた落雁に、きな粉と黒糖を合わせた餡を詰めたもので、織田信長の孫・八重姫が菰野藩に嫁いだ際の、嫁入り道具にあった仔犬の玩具をかたどったものだ。いずれも地域の文化や歴史と深く結びつき、長年愛され続けてきた菓子である。

ちんころ

 そうした伝統のラインナップに、新しい風を吹き込んでいるのが、七代目の柴田啓示さんと奥様だ。現在のイチオシは、毎朝9時30分頃に焼き上がる「窯出しあんどーなつ」。バターをたっぷり使った生地でこしあんを包み、サイコロ状の型で焼き上げた、見た目にもかわいらしい一品である。焼き上がりの時間が近づくとSNSで情報を発信し、出来たてを求めるお客様と〝ライブ感〟を共有する取り組みも今風である。

あんどーなつ

 また、「音色」と名付けたブランドでは、自身のお子様たちが好きなマドレーヌやプリンといったシンプルなお菓子を、そのまま同世代の家族層へ届けている。柴田さん夫妻はともに、四日市の名店「ことよ」で菓子づくりを学び、結婚されて岩嶋屋を継いでいる。確かな製造技術に加え、ネーミングや包装の表現方法からは、お菓子に対する愛情と温かみを感じることができる。

 近年、菰野町は新東名高速道路の開通などにより交通の利便性が向上し、人口は増加傾向にある。若い世代の定住も進み、これまで和菓子に馴染みのなかった層が来店する機会も増えているという。「新しいお客さんにも、おやつ感覚で、もっと気軽に和菓子を楽しんでもらいたい」と柴田さんは語る。今後は店舗改装やイートインスペースの設置も視野に入れ、2025年12月には法人化し、柴田さんが代表取締役に就任した。

 135年の歴史を守りながらも、菰野町の観光キャラクター「こもしか」の焼印を押したどら焼きや、地元高校生と「フクユタカ大豆」を使って開発したコラボ商品「すきすき大福」など、地域とのつながりを大切にした挑戦も続けている。岩嶋屋の屋号には、「地盤が岩なら、わが島国日本も地震など恐れることはない」という、揺るがぬ理念が込められている。その理念の上に、伝統と柔軟さを併せ持ち、次の時代を見据えて歩む岩嶋屋の姿は、私たち和菓子業界の同世代にとっても、大きな刺激と学びとなる存在である。ぜひ一度、菰野の地を訪れ、その味と想いに触れていただきたい。

 全菓連青年部中部ブロック長・古田敦資