焼皮桜餅
日本の四季にはそれぞれに風情がありこの風情を生かした和菓子があります。この和菓子は幼い思い出から大人になっても心のふるさととして息づいています。和菓子を時代に即した商品に育てるため今一度掘り下げて考えてみました。
静岡県から石川県を結ぶ線から北方面の地方では三月三目のひな祭りは焼桜餅が支流で、愛知県から福井県に掛けての西方面の地方は道明寺桜餅がひな祭りの和菓子として持てはやされている。桜餅の始まりは徳川家光江戸三代将軍が向島で腹痛に見舞われ、あるお寺の水を飲んで腹痛が治ったという、家光はこの寺を「長命寺」と名付けた。この長命寺の門番が向島の桜の花見客にと考えて「焼皮桜餅」を売り出したのが江戸中期元禄時代とされている。小麦粉を水でこねて平鍋で楕円に焼き上げ、塩味の小豆粒餡に巻き付け、塩漬けの桜の葉で包んで庶民のために考案したお菓子とされている。この焼皮桜餅は時代が変わってもさほど進化せず、現在でも小麦粉の二割位までの白玉粉と少量の砂糖でこね、その日限りの製品として売られているが、関東のお客様は何とか二日間もたないものかと歯がゆい思いをしている。また、最近の若者は餡をあまり好まない傾向にあり、皮は食べるが餡は小さい方が好まれる。製造する方は薄皮に焼いて餡を多く使用する方が生産性も上がるので無意識のうちに薄皮になる傾向にある。そこで厚皮に焼いて二日間持たせる焼皮桜餅を提案する。ただしお客様には常温保存で、冷蔵保存は硬くなりやすいむねを周知させなければならない。また、製造者には冷凍して生産性を高めて広範囲の販売を考えることは厳禁としたい。本来朝生の焼皮桜餅を冷凍可能な製品に改良することは製品の本質が変わることであり、諸先輩がひな祭りのお菓子として長年掛けて全国に広めてくれた歳事菓子の命が失われるおそれがある。和菓子製造に携わる者として、菓子業界の諸先輩から受け継いだ歳事菓子を次の時代に伝授していかなければならない責務があると考える。自分本位に考え本来の歳事菓子が消えてしまうようなことは断じて許されない事と考える次第です。
●配合A(従来の配合)
白玉粉 ………………… 25g
水イ …………………… 20ml
水ロ……………………100ml
薄力粉…………………100g
上白糖 ………………… 35g
水ハ …………………… 60ml
●A工程
①白玉粉に水イを加えて粒子を溶かす。
②水ロを加えて薄力粉を加えて粘りを出すようにこねる。
③上白糖を加えて混ぜる。
④水ハで硬さの調節をして着色する。
一般的な焼皮桜餅でその日限りの製品として扱われている。
●配合B
白玉粉 ………………… 25g
水イ …………………… 30g
水ロ……………………120ml
薄力粉…………………100g
上南粉 ………………… 10g
上白糖 ………………… 35g
水ハ …………………… 35ml
・中餡
小豆こし生餡……… 1000g
グラニュー糖…………580g
水………………………300g
ハローテックス ……… 80g
食塩……………………… 1g
美味しい焼皮桜餅には、中餡にも精神込めた練り餡が必要とされる。
●工程B
①白玉粉に水イを加えて粒子を溶かす。
②水ロを加えて薄力粉を加えて粘りを出すようにこねる。
③上南粉と上白糖を混ぜて加える。
④水ハで硬さの調節をして着色する。
※どら焼き種と同じくらいの硬さ。
●焼き方
①平鍋を温めサラダオイルを軽く塗る。
②生地を中花さじで取り4㎝の8㎝に流す。
③手早く中花さじの底部を前後して7㎝の12㎝に延ばす。
④順次平鍋に生地を流したら端をつまんで裏返す。
⑤白く皮張れば焼上がりで硬く絞った布巾の上に取り上げる。
⑥冷めてから中餡20gをヘラ付けして鉄砲巻にする。
⑦水洗いした塩付けの桜の葉を巻き、ビニールの小袋に入れて販売する。
※常温保存が最適であるが気温の高い地方で製品に不安がある場合は、18℃低温庫保管をお願いします。
日本菓子専門学校 鎌田克幸 氏
和菓子講習 基礎編より