菓匠 尾張屋昌常
海津市南濃町駒野 小さな和菓子屋四代目
私は約30年前、愛知県安城市にある両口屋菓匠にて約7年間の修業を終え実家のお店を継ぐために戻って来ました。
四代目といいましても、先代は早くに亡くなり、母が一人で切り盛りしている小さな和菓子店です。
帰って来て先ず私は「地元に銘菓を作りたい」と考え、修業先で覚えてきたどら焼きを海津市南濃町の名所である『月見の森』という名前を付け販売いたしました。
今では手土産や地元の宣伝にもなり、作って良かったなと思っています。月見の森どら焼きが定着し始めた頃、店を一人で守ってきた母が54歳という若さで、突然亡くなってしまいました。沢山苦労をかけた母に、まともに恩返しをすることもできないままで、とても悔やみましたが、親せきや近所の方々に店を繁盛させることが親孝行だと励まされ、母が一人でお客様をつないでいてくれたことに感謝し、必ずいい和菓子屋にして見せると決意しました。
母とともに苦労して完成させた月見の森どら焼きの反響で、市内にある海津明誠高校さんから、一緒に和菓子を製品化してもらえませんか?とオファーを頂き、生徒さん達とのコラボ商品を作ることになりました。
完成したのは『感謝のありがとうどら焼き』生徒さん達が考えた焼き印をバター入りどら焼きに押し印して、学校行事や産業祭など催事の場所で生徒さん方が販売しました。ありがとうどら焼きが好評だった為、その後も一緒に商品開発をし、新たに『コーヒーどら焼き』や『チーズどら焼き』も製作し、販売しました。
地元の高校生さんとのコラボ商品というのは、お互い勉強になり地元の発展にも繋がる、意義のある製作活動だったと思います。そして今では、店に全部で5種類のどら焼きが並んでいます。
最近では特に大福に力を注いでいます。和菓子=お年寄りというイメージやコンビニエンスストアの商品のラインナップによる若者の和菓子店離れを防ぐため、生クリームやフルーツなどを取り入れた洋和風な商品を作ろうと考えたからです。年間を通して9種類の大福を販売しています。
若いお客様や子連れのお客様も徐々に増えて来ました。
和菓子は季節が大切です。その季節にある食材を使いその時期に販売する。お客様から、季節の変わり目になると、もう○○始まった?と聞かれると、楽しみに待っていて下さるのだなあ、と嬉しくなります。
尾張屋では、毎月第2、第3金曜日(7、8、9月はお休み)に季節の上生菓子を入れた箱詰めを会員様にお届けする【お菓子の会】ということをやっています。今年で23年目になります。これも、修業から帰ってきて始めたことです。当初上生菓子は全く売れませんでした。修業先で覚えてきた技術と味を地元の方々にも知ってほしい味わってほしいと思い、自ら配達をして広めていくということを考えたのです。その甲斐もあり、今では上生菓子を求めてお店に来て下さるお客様、お抹茶の先生も増えました。
本当に徐々にですが、味が広まりお客様が来て下さる事に感謝して、これからも妥協せず、最高の和菓子を作る事をモットーとして、ご先祖様や応援してくださる方々にも認めてもらえるよう、夫婦ともども頑張っていきたいと思います。
菓匠尾張屋昌常・高木康成