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ローカルフードプロジェクト

公益を目指した活動から得られた経験と知見

黄金のバターサンド

 "米粉福井"の推進と「黄金の梅」のサスティナブルな活用に向けて…福井の老舗菓子店×同志社大学生の共創プロジェクト。更なる協働体制で継続する米粉活用事業計画。

【自己紹介】

 ▼福井県の株式会社甘泉堂の4代目、村中洋祐と申します。明治43年に創業し福井の代表的な銘菓である羽二重餅や水ようかんといった和菓子と「パティスリーKANSENDO」の屋号で洋菓子の製造販売を生業としています。当社が110年以上に渡りのれんを守ってこられたのは、福井の人、自然の恩恵があったからこそ。そんな感謝の気持ちから地元福井に貢献すべきと日頃より想いを持っていたところ、農水省の補助事業であり福井県が立ち上げた「ふくいローカルフードプロジェクト(以下ふくいLFP)」を知りました。ふくいLFPは「福井の米の消費量減少という地域課題の解決に向け共業体を組織し、地域発信をしながら米生産者も含め収益を増加させる」という活動だとのこと。実際に参加して稲作農家さん含め、いろいろな業種の人たちと話をしてみると、米どころ福井の米が大きな課題を抱えていると知りました。

【プロジェクトを立ち上げたきっかけ】

 ▼米どころ福井県。有名なコシヒカリも福井県が開発した品種です。しかし現在、米の消費量が減少しており、福井の農家さんも苦しんでいます。人口減、コロナによる外食の落ち込み、パン食の隆盛、脱炭水化物志向など原因はいろいろで、官民が連携してさまざまな対策や支援をしていますが、特に稲作農家が多い福井県では、肥料価格の高騰分も価格転嫁できず、農業経営は厳しい現状だそうです。可食分フードロスを大量に出しながら、食料自給率の低い我が国に於いて、米作までもが衰退してはとの危機感は即座に共有することができました。私ども、菓子店1社の企業活動で改善できる課題ではございませんが、食品製造業界にある課題解決への一助となればと考えたことがきっかけでした。

【同志社大学の学生が「黄金の梅」と出会い、その熱意がESHIKOTOさまと当店のご縁に繋がった】

 ▼隣接する京都と福井で、歴史上も食をはじめとする文化の往来があった両府県。その京都市にキャンバスのある同志社大学の政策学部のゼミ生が「黄金の梅」という福井県のプレミアムな梅の魅力に取りつかれ、商品開発に取り組み始めたとのこと。「黄金の梅」とは福井梅の「新平太夫」を樹上で完熟させ自然落下した梅のうち、「良品」と呼ばれる最高評価を与えられたものだけをそう呼ぶそうです。通常の青梅の収穫期間が1ヶ月間であるのに対し、黄金の梅の収穫期間は3日間というプレミアムな梅です。

 学生さんたちが黄金の梅を調べるうちに、その加工品はジャムやゼリーだけでなく、福井を代表する酒蔵会社で梅酒をつくっていることを知ります。永平寺町の「ESHIKOTO(エシコト)(※)」で販売され、そこでしか飲めない梅酒と出会い、その甘味に感動したようです。ESHIKOTO梅酒は「黄金の梅」のみを使用した梅酒で、黄金の梅の梅林一帯の桃源郷を彷彿とさせる甘い香りが余韻となって残ります。その梅酒梅は漬け終わった後も甘くフルーティーな香りを漂わせているのですが、食品として販売はされていない…濃厚な甘みと香りを再利用してお菓子を創ろうと試行錯誤を繰り返し、バターサンドに辿り着きます。

 そのころ当社は、LFPの米粉商品の開発に取り組み始めたところでした。そこにまったく縁もゆかりもない学生さんたちから電話を頂きました。彼らが辿り着いたバターサンドの開発に協力してもらいたいという事でした。熱い想いは理解できたこと、数ある福井の菓子店から当店を選んでいただいたことは有難いことですが、学生さんのゼミの活動での取り組みだろうと、正直軽く捉えていました。
 (※福井を代表する酒造会社である黒龍酒造の販売を担う石田屋が昨年オープンした施設で、約3万坪の緑豊かな九頭竜川沿いの敷地に、酒と食、伝統工芸品が楽しめる。絶対に福井に来られたら訪れてほしいお勧めスポット!)

【プロジェクトの内容】

 ▼学生さん、ESHIKOTOさん、福井県との共同開発へ

 その連絡があってから瞬発的に、せっかくなら梅をサンドする生地を福井の米粉でつくってみたいと思い立ち、すぐに学生さんに連絡。ESHIKOTOの責任者である水野真悠さんにも加わっていただき、リモート会議で議論を重ねました。時には学生さんに福井までお越しいただきました。

 黄金の梅が持つフルーツ以上の圧倒的な香りと独特の酸味を米粉とおからのサブレ、バターでいかに上品に引き立たせるかは想像以上に難しいものでしたが、学生たちの熱い期待に応えるべく試作を繰り返しました。学生さん、デザイナーにも加わっていただき、ネーミングは「黄金のバターサンド」に決定。

 仕込みに使われた「黄金の梅」は豊かな風味をお酒に嫁して役目を終えます。その梅を老舗和菓子店が用いて、米どころ福井県産コシヒカリと大豆のおからから作られたサブレでバターサンドに。和(なごみ)と輪(つながり)から生まれた、サスティナブルな西洋和菓子とのコンセプトで進める事になりました。

 プロジェクトと並行して取り組んだのが、農水省や福井県の補助要件に含まれるクラウドファンディング。補助事業の成果物として開発された商品はもちろんですが、クラウドファンディングを活用し、商品の「将来性や期待度」、一般消費者へのコンセプトの「理解浸透、共感度」を測るという視点も含まれておりました。初めての経験でありましたが、学生の皆さん、ESHIKOTOさん、共業体に参画してくれた企業の皆さんと協働し広範囲で大きな活動へと昇華していきました。

【プロジェクトの展望・ビジョン~それぞれのゴール】

・農水省と福井県庁のミッション。LFPによる米粉推進プロジェクト…福井の農家を守ること。

・大学生たちのミッション。このプロジェクトの成果により、梅酒梅の食品材料としての可能性が見出せ、地域資源として「梅」のブランド力が向上。メニュー開発や商品開発が進む。

・当社のミッション。この取組がモデルとなり、他の菓子店や飲食店、食品加工に携わる地域企業に広がり、共業体への参画による地域力増進と新幹線開業時の経済効果を獲得。

【当店の今後の事業計画と方針】

 ▼年度が改まり、当店はふくいLFPの事業主体企業からは外れますが、継続して共業体に参画して行きます。今回頂いたご縁、共業体の研修会や検討会からの気づきが更なる商品開発意欲につながりました。

 継続する商品開発のコンセプトは「頑張るお母さん応援!」。福井県は男女共同参画社会としては先進的な県です。一方、家庭での自分時間の男女差は全国でもワーストで女性の時間が少ない。これは教育水準が高い事でも知られる福井県にて職場と家庭で頑張っているお母さま方がたくさんいらっしゃる事の証です。

 今後、福井県産米粉を使い、ごはん、麺、パンとも違う主食品の開発に着手しています。今秋を発売の目標としております。

 SNSを通じ子育て真っ最中のお母さまにアプローチし、アンケートや試食会を通して意見を募りました。子どもにも安心して食べてもらえる食品。とりわけ最も忙しい「朝ごはん」に用いて頂く手軽で栄養があり自然食に近い主食を企画しています。

 この開発に至っても、LFP事業で昨年度召喚された異業種の共業体の方々の協力があります。今年度も共業体の協力を得ながら、「黄金のバターサンド」の拡販活動と新たな主食品開発~販売プロモーション活動を展開し、米処福井県としての地域力の発信に貢献していきたいと考えています。

 福井県菓子工業組合・中央支部組合長・村中洋祐

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