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エッセイ「神対応」

 カミさんのベッドのシーツが破れているのを発見した。もう何年も使用していることに気が付き、この度新調することに決めた。さて、どこで買おうか、となり店選びをすることになった。近隣には寝具店もあるのだが敷居が高そうだし、東京インテリアやニトリまでわざわざ足を運ぶ気にもなれない。結局他の買い物のついでにイオンで買う事にきめた。

 寝具売り場には沢山の商品が山積みされていて、どれを買ったらいいのか迷ってしまう。綿100%の素材、シンプルな柄、ベッドに簡単にかぶせるタイプを基準に、同じものを4つ買ってきた。

 家に帰り、早速シーツを交換したのだが、マチが少なく、なかなかかぶさらない。力ずくで勢いよく引っ張った瞬間「ビリッ!」と、いとも簡単に破れてしまったではないか。どうやらベッド用ではなく、布団用のを買ってきたらしい。

 さて、早速返品に行くことにしたのだが、レシートが見当たらない。カミさんが支払ったのでカミさんの財布の中を探しても見つからない。車に積むとき落としたんじゃないか等と、方々探してもとうとう見つからない。すったもんだの末「お前が悪い!」「いや!あんたのその言い方にはとても付いていけないわ!」などとひと悶着があり、レシートなしで返品に応じてくれるかどうか分らないが、破れたシーツも一緒に持って行ってみよう、となった。

 交渉するのはカミさん。だって、僕は悪くないもん。

 私は少し離れた場所で様子を伺っている。カミさんは買ったところのレジ前に行き、店員さんに事情を説明している様子。ほどなくして私の元へ。

 「どうだった?」 「調べるから少し待って欲しいんだって」何せレシートを失くしてしまっている。

 10分位経ったろうか…〇月〇日〇時頃、確かに購買の記録が残っている旨を説明され、返品に応じてくれたのである。なんと、破れたシーツも!たいして愛想もない男の店員であったが、イオンの神対応には脱帽である。

 私も菓子屋の経営者なので、常々店員の応対には神経を尖らせている。幸い苦情も聞こえてこないので安堵しているが。

 「お客が突然買いに来なくなった理由」というアンケート結果を以前聞いたことがある。引っ越しをしたりけがや病気で来られなくなった。死んでしまった等、沢山の理由があるが、70%以上の答えは「店の対応に不満」である。よほど菓子に特長や根強い人気があって、菓子が独り歩きしているところは別として、店の応対が良ければ従来のお客は離れない、という事になる。

 山形の漬物屋さんで「満足がいかなければ、食べかけでも返品に応じます」と謳うお店がある。このお店、決して大きな商いをしているわけではないが、抜群の信頼度を誇り、日本全国に固定客がいる。

 あのイオンでさえこのような神対応をしてくれるのである。ましてや小さな菓子屋が生き残るためには、お客様との信頼関係を強固なものにしなければ、これから益々厳しくなるであろう。

 ヒット商品や、美味しい菓子作りを心掛けるのは顧客満足度を上げるのに必要であるが、楽しい買い物をしてもらうための工夫や、接客技術の向上、満足度アップのためのシステムづくりに、もっと力を入れなければと考えさせられた出来事である。

 山形県菓子工業組合副理事長・戸田正宏