各地の菓子店探訪
岐阜県菓子店の投稿

和菓子処 関市 虎屋

最高の和菓子

円空さん

 当然のことながら仕事柄、今まで数え切れないくらいお菓子を食べてきた。今もお菓子屋の勉強会で広島、山口、福岡と旅をしているが、もはやライフワークと言っても過言ではない。そんな私が今回ご紹介させていただくのは、岐阜県関市という人口8・9万人の街にある「関市 虎屋」だ。ここの代表取締役の古田社長は現在、岐阜県菓子工業組合の青年部長もやられており、会合でお会いする度に彼の人柄に引き込まれ、一度彼のお店に行ってみたいという衝動に駆られたのがちょうど一年前、今回で2回目の訪問である。

 すでにご周知のように岐阜県は日本のほぼ中心に位置し、全国第7位の広さ7つの県に囲まれた内陸の県で、人口は193万人、かつては斎藤道三や織田信長公が城主を務めた岐阜城はじめ、飛騨の美しい山々と、長良川を代表とする美しい自然と豊かな水が有名だ。

 そんなふんだんな地の利を生かして、菓子も「水」に関わるものが多い。岐阜といえばこの時期ならやっぱり「栗きんとん」、夏なら「鮎菓子」に「水まんじゅう」だろう。

 和菓子屋なら誰でも思うことだが、水が美味いというのは最大の強みだ。小生が先輩に教わったのは「洋菓子は空気を売り、和菓子は水を売る」という格言。その通り洋菓子はジェノワーズをはじめシューやロールといった「空気」を多く含んだもの、和菓子の場合は餡や羊羹、外郎、水菓子など「水」を販売の主軸にすると利益が出やすいという話だった。何を作るにしても水がうまいということは全てプラスに繋がると思うが、和菓子の場合は特に痛感する。その理由は「餡」だ。

 その中でも違いが顕著に出るのが「自家製こし餡」だ。我々和菓子屋はよく「製餡」と呼ぶが、その作業は機械化するのにもコストがかかるし作業場所も必要だ。ふっくらと炊いた豆を皮と呉(ご)にわけ、中身である呉を冷たい水で晒して、雑味を取り除くわけだが、豆を炊き上げる工程から晒す水、そして炊き上げる水… 手間がかかるのはもちろん大量の水が必要で、それらが味に大きく影響する。

 本当にそんなに味が左右されるのか?疑問に思われる人もいるだろう。そんな人にこそ食べていただきたいのが、こちら関市虎屋の看板商品「円空さん」だ。「円空さん」とは変わった名前だが、所以は岐阜県出身の12万体!の神仏を彫り続けたとも言われる修行僧の名で、晩年を過ごしたのがここ関市だという。名水で丁寧に炊かれた、ほんのり紫色で、艶があり、色気さえ漂う自家製餡を、毎朝手焼きした生地で包み、手で独特の形に仕上げたもの。触った瞬間に美味いということがわかる(笑)一口頬張ればふっくらとしたカステラ生地にサラッとした餡が口の中で一体となり、なんともいえない幸福感。決して小ぶりではないのだが、食べ終わった後もう一つと手が伸びてしまう和菓子なのである。今回訪れた際にも平日にも関わらずお客さんがひっきりなしにご来店され、その人気ぶりを目の当たりにした。(ついには完売してしまった) 聞けば円空さんは40年以上も売れ続け、売上構成比率は60%とのこと。そんな看板商品、みなさんも欲しいのではないでしょうか?

 小生がみた、円空さんが売れ続けている秘訣は

①名水をふんだんに使って丁寧に作られた自家製漉し餡(冷凍しない)

②厳選された材料で毎朝出来立て、作りたてを製造し販売している。

③時代に合わせて、少しずつ改良された古田社長の創意工夫

 時代が進みどんどん新商品が出ては消える昨今、お店を続けることも一つの商品を製造販売し続けることも難しくなってきたが、やはりお客さんに支持され続けることの裏には、社長はじめスタッフの方々の日々の努力研鑽があるのだと改めて痛感させられた。地域を代表する和菓子屋の仲間がこうやって繁盛し街の活性化の一役を担っていることに誇らしさも感じた。小生が思う「最高の和菓子」是非ご賞味あれ。

 全菓連青年部中部ブロック長・竹内信仁

店舗データ

和菓子処 関市 虎屋
〒501―3886
岐阜県関市本町7―25
Tel:0575―22―0302
定 休 日:火曜・水曜
営業時間:8時30分〜18時

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