『嶽きみぷりんが桃鉄の物件になるまで』
御菓子司 開源堂川嶋
青森県弘前市の旧岩木町の嶽地区には、今や全国にも誇れるブランドとうもろこし『嶽きみ(だけきみ)』が栽培されています。
津軽では、とうもろこしのことを『きみ』と呼びます。
嶽地区で採れたとうもろこしなので、嶽きみの呼び名が付きました。津軽富士とも言われる岩木山の麓の高原栽培という昼夜の寒暖差を活かし、糖度が18度を超える圧倒的な甘さが魅力のブランドとうもろこしです。
私の和菓子店では、その嶽きみを使って何か開発出来ないだろうかと、今から約15年程前に和風プリンと言う形で季節限定販売を始めました。
当初はとうもろこしを茹でて裏ごしして、牛乳や生クリームと混ぜて固めた、いわゆるコーンポタージュをプリンにしたような製品で売り出しました。しかし、とうもろこしが特別なものだけで全国どこにでもあるような商品で、鳴かず飛ばずのまま年月が経ちました。しかしながら2019年の夏の嶽きみの収穫が始まった頃、商品を思い切ってリニューアルしてみようと思い立ち、なんとか嶽きみの特徴を活かし、この商品は正真正銘、嶽きみを使ってますよ!と分かるような商品が出来ないものかと試行錯誤し、ふとアイディアが舞い降りてきました。
それは、嶽きみの特徴である折角の歯ごたえのある粒を裏漉すのはもったいないと考え、粒自体の甘みを存分に味わって頂こうと、あえてプリンの主体であるミルク部分を分けてカップの下部に流し、嶽きみの粒をふんだんに入れたジュレを上部に流し合わせた二層構造の商品で、口の中で嶽きみとミルクプリンのマリアージュを楽しんでもらおうという商品が完成しました。
その頃は、時代も様々なSNSで自由に情報発信ができる環境真っ只中にあり、見た目が『映える』商品が注目を浴びる時代でもあり、当店でもTwitter(現Ⅹ)で発信すると、最初はあまり期待をしていなかった売れ行きが、ネットの反響と共に伸びて行き、プチバズリ、青森県庁が発信しているアカウント『まるごと青森』にも掲載していただきました。
ある日、そのツイートに対するリプライを閲覧していたら、ある女性がまるごと青森さんに『この商品はお取り寄せ出来るんですかね?』と尋ねていた部分を見て、当店のフォロワーさんではないし、横からお答えするのも厚かましいかな、と一瞬は躊躇したものの、直ぐに『当店のDMから全国発送も承ります』と返答し、すぐさまご注文を頂きご自宅に発送致しました。
実はこの件がターニングポイントで、その女性は、あの超有名ゲーム『桃太郎電鉄』の作者の「さくまあきら氏」の奥様だったのです。さくまあきら夫妻は特段の青森県好きで知られていらっしゃり、さくまあきら氏が当店の嶽きみぷりんを召し上げり、『おいしい。(新作桃鉄の)弘前の物件に加えようか』とツイートしてくださったのが、嶽きみぷりん大ヒットの始まりでありました。
その後、ネットの新聞やまとめサイト、地元グルメ系YouTuberに取り上げられ、地元テレビ局のニュースでも取材していただいて、お店のご来店の他、全国からお問合せをいただき、おかげさまで当店史上最高のヒット商品となりました。
令和版桃鉄の弘前駅の物件のモデルにもして頂きました。私一人で製造している極小店なので、製造数は高が知れていますが、今思うと、あの時、さくま氏の奥様に返答していなかったら、今は無かったかなとも思います。
ちなみに当時、さくまあきら氏って誰?物件って何?ってくらい私がゲーム(桃鉄)には疎かったのは内緒です(笑)
青森県菓子工業組合 副理事長・御菓子司 開源堂川嶋 代表・川嶋将晃