日本三大饅頭 柏屋
「まごころでつつむ」
今回は日本三大饅頭で有名な柏屋の本名創社長に伺いました。
Q.「朝茶会」「青い窓」など地域に密着した活動をされていますが、その目的や背景などありますか?
本名 「朝茶会」はお正月を除く毎月1日に柏屋本店で開催される柏屋の行事です。今年の4月で500回、50周年を迎えました。東日本大震災やコロナ禍で長期休止をしたため、ずれが生じました。「朝茶会」では皆様にご相席をお願いしております。知ってる方も知らない方も、常連さんも初見さんも、一緒になってお菓子とおしゃべりを楽しんでいただきます。知らない方との出会いは世界を広げます。そんな出会いを提供できる場として親しんでいただきたいと考えています。
「青い窓」は昨年65周年を迎えた児童詩集です。創刊は昭和33年5月5日。高度経済成長期だった日本は4代目が子供のころ遊びまわった空き地や池がどんどん姿を消していくのを見て「子どもたちの心を守りたい」と思い立ち、幼馴染で詩人の佐藤浩先生、看板屋の篠崎賢一さん、画学生だった橋本貢さんと一緒に「こどもの夢の青い窓」を創刊しました。子供の表現の場を作り、守っていくこの活動はSNSでは替えのきかないものだと信じていますので、これからも続けて行きたいと思います。
Q.社長になられて変わったことはなんですか?
本名 父が経営に対する指示・命令を一切しなくなりました。元々代替わりしたら口を出さないというルールがあるのですが、本当に何も言わないというのはよっぽど精神力が強くないとできないのではないかと思います。今は従業員の皆さんと一緒に議論をしながら会社の舵取りをさせていただいています。船は船長がいても、船員がいないと走らないんだということを、日々痛感しています。
Q.大切にしている価値は何かありますか?
本名 「まごころでつつむ」という家訓があります。柏屋でお菓子を学んで菓子屋をやっていた方が「教わった通りの皮であんを包んでいるのですが美味しい饅頭ができないのです」と相談に来たことがあります。初代は「それでは美味しい饅頭はできない。まごころで包まなくてはいけない」と言ったといいます。レシピ通りに作っても、地域ごとにお客様の好みというものがあります。自分のお客様のことを考え、求められているものを教わったことから新たに編み出すことが「まごころでつつむ」ではないかと考えています。「まごころ」は場所や時代や誰を対象とするかで色んな形に変わります。今私が求められている「まごころ」は何なのかを常に考えるようにしています。
Q.商品開発や企画について活発で素晴らしいですが意識していることはありますか?
本名 私は職人ではないので、商品開発は職人さんと二人三脚、三人四脚です。何が正解かわからないので、「あれがいいんじゃないか?これがいいんじゃないか?」と一緒になって、仮説を立てて答え合わせのつもりで商品を出しています。当たったものばかり目立つかもしれませんが、あまり知られていないものもわりとあります。新米社長として挑戦をやめたらもったいないので、これからも様々な提案をして行けたらと考えています。
Q.人材の教育について取り組みやお考えはいかがですか?
本名 体系立てて教育をするということがどうも苦手で、一緒にしながら私の考えなどをお伝えすることが多かったのですが、柏屋の人間でなくても伝えられるようなことは外部の教材、講師にお願いするのも手だと思っています。今後は柏屋のマインドを共有して伝えてもらえるような人財も育てていければと考えています。
Q.菓子業界が生き残るために必要なことは何だと思いますか?
本名 柏屋が生き残るための答えもはっきり見えてはいないので難しい質問ですが、一言で言うなら「柔軟性」かと思います。固定観念に囚われてはできることもできなくなってしまいます。人間の体が年を経て可動域が狭くなるように、菓子屋も考えることをやめるとどんどん可動域が狭くなってしまう気がします。Keep Moving!
Q.私たちが使用している包餡機は、柏屋さんの薄皮饅頭を包むために開発されたと言われていますが、その当時のことを詳しく聞いていらっしゃいますか?
本名 私の祖父に当たる4代目柏屋善兵衛がレオン自動機の創業者林虎彦名誉会長と共同開発したそうです。林会長は生地を餡にまとわせる機構の開発に成功していましたが、それを球体に包餡する機構の開発に行き詰っていました。一方祖父はその逆でした。2人の出会いが世界で初めての「包餡機」を誕生させました。当時テストのため会社から餡や粉を大量に持ち出す祖父は周りから「おかしくなった」と言われていたそうです。革新的なことを起こす人物は度々変人と言われることもありますが、「饅頭で一生を棒に振る」と決めた祖父は林会長とその夢を成し遂げました。証拠に柏屋の資料室には包着盤(ほうちゃくばん)の試作機が置いてあります。
Q.「代々初代」とう家訓があるそうですがその解釈やご自身の思いなどお聞かせ頂けますか?
本名 「代々初代」とは同じことをするなら代替わりする意味はない、店主を継ぐのであれば新しいことをせよ!という意味です。3代目は第2次世界大戦を生き抜き白かった薄皮饅頭を黒糖を使った饅頭に生まれ変わらせました。4代目は手作りしかできなかった時代に包餡機を発明し、食品業界に産業革命を起こしました。5代目は包餡機で手作りよりおいしい薄皮饅頭を作り、大きく市場を広げました。私も私の「代々初代」が何なのか、見つけられる日まで挑戦し続けるのみです。
Q.どのような「柏屋」でありたいですか?
本名 水のように、空気のように、素朴でもいいので、在ることを望まれる「柏屋」を目指します。
素晴らしいお話ありがとうございました。長く続く家業には、良い哲学と勇気が存在するのだと改めて勉強になりました。
青年部東北北海道ブロック長・目黒徳幸