各地の菓子店探訪
北海道菓子店の投稿

紋太くん塩バターどら焼き

将棋名人戦の勝負おやつに

紋太くん塩バターどら焼き

 「明日、朝9時までにホテルまで紋太くん塩バターどら焼きを3個、配達願います」

 やっと、待ちわびた電話が来ました。

(両棋士とメディア紹介の分で3個)

 ご存じの方も多いと思いますが先日、藤井聡太八冠(現 七冠)対豊島将之九段による第82期名人戦七番勝負第5局が当地紋別市のホテルで行われ、ここ近年の将棋の対戦では、勝負めしや勝負おやつが話題となりここ紋別での名人戦でも勝負めしメニューが用意され話題となりました。

名人戦は、全国からの公募により開催地を決定されますが、当紋別市もダメ元で応募したところ、なんと当選。名人戦の決定からすぐに市は市長を委員長とする実行委員会を立ち上げ名人戦の受け入れ準備を始め勝負めしのメニューブック作りも始まりました。併せて市内の飲食店や菓子店からの対戦に提供する品を募集し、勝負メニュー作りを進めました。自分も、地場で半世紀以上営業させて頂いており、また市内菓子組合組合長を仰せつかっているゆえ、折角の機会、是非メニューに載せてほしいと思い応募する菓子を考えました。応募の条件として「紋別市らしいもの」がテーマとなっており、ネーミングやパッケージだけでなく、中身からも紋別がイメージできるものをと考え、紋別コーヒーを練りこんだ米粉の「紋別ロールケーキ」と、水色のソーダ風味クリームと粒あんを挟みご当地キャラクター「紋太くん」の焼き印を入れた「流氷どら焼き」でエントリーをしました。

 が、応募してまもなく、いつも聞いているラジオ(工場内では常時ラジオを流しております)で、「藤井名人は塩バターが好き」と聞こえてしまい、慌てて一度応募した「流氷どら焼き」をキャンセルして、塩味を効かせた粒あんとバターを挟んだ「紋太くん塩バターどら焼き」でエントリーしなおしました。

 ちなみに、紋太くんの焼き印のデザインは当地の紋別高校総合ビジネス科の生徒さんが考案したもので、毎年総合ビジネス科との事業コラボレーションで製品作りの為に高校から拝借している焼き印です。

 そして名人戦の約1か月前に勝負めしメニューブック(勝負めし12品 勝負ドリンク・おやつ20品、勝負軽食5品)が完成し公にお披露目されました。

 さて、名人戦の前日となり両棋士も紋別入りし、多くのメディアや随行者、他市町村など全国からの来客でにわかに市内も盛り上がってきました。

 実行委員会からは、「前日の18時までに選ばれた品について直接電話で注文します」との連絡を頂いていたのですが、17時30分を過ぎても一向に電話がくる気配すらありません。「あ~、だめだったか…」と思いつつも前夜祭へと向かいます。

 会場に着き、受付を済ませてテーブルに着くと1本の電話が。

 そうです、ここで冒頭に書いたどら焼きの注文が来ました。

 周りには沢山の来客や報道の方が居たにも関わらず、思わず「よっしゃーーー!」と声を上げガッツポーズをしてしまいました。20品ある勝負おやつで、唯一の和菓子でエントリーし、名人の好みも考慮し、多少なりとも自信をもってエントリーしたつもりだったのですが、ぎりぎりまで連絡がなくほぼ落選したと思っていたので、注文を頂いた時は本当に嬉しかった。とにもかくにも嬉しかったのですが、実行委員会からは「名人戦の当日、メディアなどで公表になるまでは絶対に事前に公言しないてください」と言われていたので、ぐっと喜びをかみしめて堪えてましたが多分、周りから見ればニヤニヤしていて、変なおっさんと思われていたかもしれません。

 さて日は変わり、ついに名人戦が始まり午前のおやつとして、ABEMA TVやテレビなどのメディアで午前のおやつで当店の「紋太くん塩バターどら焼き」が紹介されるや否や、問い合わせの電話が10分おきに入り、仕事にならず。

 初日に、事前に準備しておいた700個があっという間に売り切れ。

 それから1週間、毎日1000個の製造をし、普段は1か月に1度しか練らない餡を1日おきに練り…1週間で1年分のどら焼きを製造しました。

 市内のイオンにも支店がありますが、連日どら焼きを求めるお客様で長蛇の列が出来ていたとのこと。さすがに、家内と自分の二人でしか製造していないので、製造が追いつかずそれから1か月間、お1人様3個までと制限を掛けさせてもらいましたが、それでも店頭に出した商品は売り切れの連日でした。

 名人戦から、3か月以上経ち当初のような売れ行きではないですが、通常よりも売れている状態です。何より良かったのは、通常では売上が落ち、どうやって乗り切ろうか悩む5月~7月が異常に売り上げが伸び、まさに嬉しい悲鳴でした。

 心無しか、問屋さんの対応も変わったような…(笑)

 名人戦や藤井七冠の影響力の凄さを改めて思い知らされた、夏でした。

 何がチャンスとなり、ヒット商品が生まれるのかはわかりません。

 是非、皆さんもチャンスを生かしてヒット商品を生み出してほしいと思います。

 名人戦で当店の「紋太くん塩バターどら焼き」を選んでいただいた藤井七冠、豊島九段、そして実行委員会を始め紋別市民の皆様に改めて感謝申し上げます。

 北海道菓子工業組合 理事・高砂屋菓子舗代表・渡邊孝博