お餅好きが多いまち、福井の「あべかわ餅」

大吉餅は、福井県福井市の中心部、旧北国街道沿いの地で江戸の時代から商いを続けている、家族経営の小さな個人商店です。福井市は家庭ごとの餅の消費量が全国的にもかなり多い地域だそうでして、街中には「菓子屋」とは別に「餅屋」が点在しております。
当店では毎日朝搗いた餅だけにこだわり、いわゆる朝生としてその日販売する分のお餅だけを手作りしてお客様にお求めいただいております。使用しているもち米は、福井県産の「カグラモチ」「タンチョウモチ」の2種類です。お餅に搗きあげた時の食べ応えやコシ、粘りといった特徴にあわせて、商品によってもち米の配合を変えています。もち米の特徴や水加減、搗き具合だけで柔らかく食べ応えのあるお餅に仕上げることで、福井の餅好きなお客様にも長くご愛顧いただけているものと存じます。

福井の餅を紹介させていただく上で欠かせない餅菓子として、「あべかわ餅」がございます。「あべかわ餅」といえば皆さまご存知の通り「安倍川餅」として日本中で親しまれている静岡県発祥の名物餅菓子であります。実は福井の「あべかわ餅」はそれとは違った姿をしておりまして、柔らかいお餅に黒蜜を絡め、きな粉をまぶしてお召し上がりいただく仕立てとなっております。なぜそのような食べ方をされるようになったのか。そのルーツには諸説あるためにはっきりとしたことはわかっておりませんが、「安倍川餅」の美味しさに感動した江戸時代に生きた福井の先人達が持ち帰り、様々文化の交わりの中で今の姿に変化し定着したものと想像することができます。
そんな「あべかわ餅」は、福井の嶺北地方を中心に夏の土用餅として食べられる風習があります。また、自分用であったり家族や友人と食べる用であったりと、身近なおやつとして老若男女幅広く親しまれており、福井人にとってはソウルスイーツとも言える存在です。一方、日持ちしないために観光土産としてはあまり適しておらず、福井県外の方々にはそれほど知られておりません。さらに、この食べ方が独特であって福井の外ではこのような「あべかわ餅」に滅多にお目にかかれないことを福井の人達自身も知らないという、ある種ガラパゴス化された興味深い存在だと思います。福井の内なる文化に触れていただける一つのきっかけとして、福井にお越しの方にはぜひ一度味わっていただきたい餅菓子です。
ますますいろんなことが便利になる今の時代だからこそ、そこでしか食べられないもの、そこでしか経験できないことにもまた大事な価値があると思います。日本中を見渡せば、地元の皆さまが大切に育んでいるその地域ならではの美味しいお菓子や文化がたくさん存在していることと思います。同じように、私達も「あべかわ餅」をはじめとする福井の餅文化をこれからも大切に、末永く餅作りに励んでいきたいと考えております。
福井県菓子工業組合・大吉餅・森淳一郎