御菓子処 伊勢屋
六代目の挑戦
新年あけましておめでとうございます。おかげさまで2年任期のブロック長も残すところあと3ヶ月を切り、この連載コーナー「ブロック長がゆく」も私の番はいよいよ今回で最後となりました。1回目は岐阜県の関市の関市虎屋さん、2回目は名古屋の亀屋芳広さん、そして最後はどこがいいかな〜と思案した結果、やっぱり地元福井のお店にしようということでパッと思いついたのが、今回ご紹介する創業194年を迎える福井県小浜市にある御菓子処「伊勢屋」です。
去年は北陸新幹線開通で全国的にも有名になった福井県。地理的にはオタマジャクシのような形をしていて、県の真ん中あたりにある木ノ芽峠を境に北側を「嶺北(れいほく)」、南側を「嶺南(れいなん)」と呼びます。県庁所在地や菓子組合事務所があるのも嶺北なので、組合活動もどうしても嶺北中心になってしまうのですが、今回の北陸新幹線延線で終着駅になったのが嶺南の「敦賀」であり、伊勢屋さんがあるのも同じ嶺南地区になります。

六代目当主である上田浩人社長は、四代目の死をきっかけに大学を中退後、和菓子の名門「京山」で修行。25歳で家業に入り、37歳で代表取締役に就任、現在40歳というまさに脂の乗った世代ですが、彼が他の部員とはちょっと異彩を放っていると私が思うのは、彼が自ら大阪二六会に勉強に行き、2016年優秀和菓子職に認定、その後、福井県内で初めて「選和菓子職」に合格し、まさに和菓子職人の王道を行くのかと思えば、コロナ禍を機にオンラインショップ大福処 「伊勢屋與兵衛」を、Makuake(クラファン)を使って立ち上げたり(目標金額237%達成)、近年では「葛ソムリエ」に認定されたり、とにかくバイタリティーがあり、話題が尽きないところ… 同じ福井県ながら嶺北と嶺南は言葉も文化も違うのですが、そんな嶺北側から見ても「素晴らしいな〜」「ちょっと彼は違うぞ」と思うのです。
福井県技能士会でも講師を務めるほどの実力派の彼だが、今回の取材で膝を突き合わせ、現状や悩み、今後の目標などを訊ねていくと、まず感じるのが彼の菓子づくりに対する熱意と、地元小浜に対する愛情。そして人口2万7千人ほどの地方都市が抱える少子高齢化と人口減少、人口流出問題という危機感、その中でどうにかお店や地元を活性化させようという前向きなマインドだ。

小浜といえば昔から作られている「くずまんじゅう」が有名で、その涼味を味わおうと時期になると県内外から多くのお客さんがこの地方を訪れる。この地方の葛まんじゅうの生地は国産の葛100%で作られており砂糖が入らないので、賞味期限が非常に短いのも特徴の一つ。作った瞬間から変化が始まり保存が効かないため、現地でしか味わうことができない。その特性を活かし伊勢屋店内には湧き水を使った水槽と喫茶コーナーが併設され、夏の時期には県内外から伊勢屋を目指して多くの方が足を運ぶ。その方達にとって伊勢屋が観光地であり目的地なのだ。我々嶺北の人間でも、「ちょっと「くずまんじゅう」を食べに〜」みたいなノリで高速飛ばして食べにいくこともあるくらい。小浜市にとって伊勢屋の存在は無くてはならないものなのだ。ただ小生の知る限りだと、小浜のくずまんじゅうがこれほど有名になったのも、上田氏をはじめとした地元のお菓子屋の方々の情報発信や努力があったからからだと思う。「昔からの和菓子を県内外から集客できるコンテンツにする」ということは簡単そうで、自然にはなかなかできないことだからだ。
それだけでもすごいのだが、彼の地元への想いは和菓子業だけにとどまらない。2024年には雲城水を使った「名水の会」を立ち上げ「サバ缶」のプロデュース&販売をし、収益は湧き水の保全活動に充てているという。聞けば慈善活動だけではなくちゃんとビジネスとして収益が出せるかどうかを意識しているというから流石だ。
菓子職人にありがちな「いいものだけ作っていればお客さんは来てくれる」ではなくマーケットを意識したプロダクトアウトを菓子業界という垣根を超えて実行に移すことができる若き匠の今後に注目していきたいし、人口の多い地域(彼より)で商売しているものとして、まだまだできることが沢山あると、恵まれている自分の不甲斐なさに恥ずかしくもあった。自分の置かれた環境を嘆くのではなく、与えられた環境でいかに挑戦し続けるか?そんな人間としての逞しさを彼の背中に見た気がした。新年度は福井県菓子工業組合の副部長をやってくれるそうで、頼もしい後輩に恵まれて嬉しく思う。
全菓連青年部中部ブロック長・竹内信二
店舗データ

御菓子処 伊勢屋
〒917-0071 福井県小浜市一番町1-6
営業時間:8:30~17:30
定 休 日:毎週水曜日
電話番号:0770-52-0766
https://obama-iseya.com/information
大福処 伊勢屋與兵衛(専門オンラインショップ)
https://www.iseya-yohei.jp/