各地の菓子店探訪
山形県菓子店の投稿

きねや菓寮

事業継承の登竜門

玄関

 山形県南陽市宮内、熊野大社のおひざ元で参詣者向けに饅頭を提供したのが始まりという杵屋本店(菅野高志社長)さんは、文化八年創業というから二百年以上続いている老舗である。

 普通、老舗と言われる店は守成になりがちだが、杵屋本店さんの歴史を見てみれば、時代を先取りして絶えず変革し、成長し続けている企業である。戦前にはカフェや洋菓子を発売し、戦後間もなく山形市に進出。直営店やフランチャイズ展開をし、積極的に売り上げを伸ばしている。その間、ヒット商品も数多く世に送り出し、「リップルバイ」は半世紀以上も愛され続けているロングセラー商品である。

内観

 この度また、新たな成長戦略として既存の売店を事業再構築補助金を活用し、カフェ併設の店舗「きねや菓寮」として令和5年4月にオープンしましたので取材に伺いました。木目調の外観に白い暖簾も目に眩しく、入店前から期待感が膨らみます。ワンフロアーの広々とした店内は洗練されて落ち着いた空間。中ほどの観葉植物を境にテイクアウトの売り場とカフェが分けてあます。店長の阿部夕見子さんが優しく迎え入れてくれ、案内してくれました。

 この店は菅野社長の二人の息子さんに次代を託すために、十一代目である菅野裕太(取締役部長)さんを中心に、弟の洗人(企画室課長)さん達と共に店舗デザインから商品づくり、コンセプトまですべて任せて作り上げたとの事。いわば事業継承の登竜門。老舗の菓子屋が若い感性に溢れた店に生まれわり、時代の先端を行く「勢い」を感じさせる店づくりです。

カウンター

 店舗のコンセプトは「継往開来(けいおうかいらい)」。先人の事業を受け継ぎ、させながら未来を切り開くことを意味する熟語です。二百年もの間紡いできた過去の業績をも切り捨てず、新しい「コト」と古い「コト」を融合させる。カフェも菓子の販売も、おじいちゃんおばあちゃんとお孫さんが一緒に楽しめる店づくりを目指しているとの事です。伝統を尊重し、新しいことに果敢に挑戦しようとの意気込みみを感じます。その意味でも今回のお店は体験型カフェとして、統一感のあるお店スタッフの皆さんが三位一体となり、とにかく楽しい空間を体験できます。

 ほうじ茶をご馳走になりましたが、フレンドリーなスタッフの一人が原材料のこだわり・お茶の淹れ方を懇切丁寧に説明してくれ、お客自らお茶の淹れ方を体験し、ワクワクしながら頂く事が出来ました。その裏付けとして、例えばコーヒーをただ仕入れるだけでなくスタッフ自ら有名店に出向研鑽してくるそうです。なるほど自信にあふれた説明ぶり、他のお客もみな楽しそうにスタッフとの会話を友人と話しているように楽しんでいるのです。

ディスプレイ

 今回お邪魔して感じたことは新しい店づくりはもちろんの事、明るいスタッフの笑顔が最高のおもてなしであると実感しました。何よりスタッフ自らが楽しむことにより、お店の空気を和らげているのだと思います。

 山形県菓子工業組合副理事長・戸田正宏