観光土産菓子から旅するお菓子へ

弊社は三重県湯の山温泉で観光土産菓子製造卸の会社として、昭和32年に祖父が創業しました。サーモンピンクの缶に入った「湯の花せんべい」は創業から変わらない味とパッケージで、温泉旅館やレジャー施設を主販路として、祖父から父へと60年以上に渡って土産菓子を作ってきました。私が3代目として代表に就任したのは2020年の事。折しも、コロナ禍の真っ只中の時でした。当時売上の95%以上を占めていた観光市場が全てストップし、廃業もよぎるどん底の状態。まず最初に取り組んだのは、「観光依存の脱却」でした。2021年に自社ブランド「tabino ondo」(タビノオンド)をスタートします。今までは観光地に来たお客様に提供していたお菓子。発想を転換し、「今度はお菓子があなたのマチに旅します」をテーマに、せんべいをアレンジした和洋菓子や和スイーツを作りました。外部のパティシエさんと協業する事で、自社だけでは出来ない洋菓子のエッセンスも取り入れ、使う素材も三重県の色々なエリアを訪ね、生産者さんの想いを聞いて歩きながら調達し、「三重」の旅や産地の空気感ごとお菓子に乗せてお届けする。そんな想いで、ブランド立ち上げ時から都内を中心に、全国の小売店バイヤーが集まる展示会に毎年何回か出展していました。地道に試行錯誤しながらも、自社やブランドのストーリーを「伝えつづける事」、商品の開発や改善、市場のマーケティングからの提案を実践して繰り返しているうちに、全国の百貨店や小売店のバイヤー様との親交も深くなっていき、この3~4年の間にスポットや催事も含めて全国47都道府県に商品を卸す事ができ、最近では海外からお問い合わせも頂くようになりました。現在は売上全体の構成比も観光地とその他小売向けの比率が50:50程度になっています。

この数年の商品開発や販路開拓で全国のお客様に知って頂く営業活動と並行して、地元での観光企画の開発や、町内60社近くの異業種の事業者を集めた体験型のまちづくりイベントの実行委員会にも参画し、工場・工房見学ツアーなども開催しています。


町内のお仕事の体験を通じて、若い世代に知ってもらう。事業者の横の繋がりで、町の魅力を内外に発信していく取組みです。自社も昨年4月に工場を改装して、外から製造風景が見られるようにしました。倉庫を改修して工場直売店を作り、この春にはテイクアウト店舗もOPENします。クローズドだった工場をオープンにし「見える化」した事で、お客様により身近にお菓子づくりを感じて頂けるようになり、今では山のふもとの工場に県内外から世代も幅広いお客様にご来店頂いています。

外でのタッチポイントを増やし、この土地に来て頂く導線作りをする。「木を見て森見る」を繰り返しその度に出てくる課題をクリアしながら、自社と地域が共生した新しいスタイルの「旅のお菓子」の価値づくりに励んでいます。
三重県菓子工業組合・菰野支部・有限会社日の出屋製菓代表・千種啓資(チクサ ヒロシ)