群馬県高崎市「微笑庵」
心から心に伝わる菓子
私は和菓子屋の三代目ですが、手先が不器用で、この世界で人の役に立てる自信は全くありませんでした。不安を振り払うように全国の和菓子店を食べ歩く中、衝撃を受けるほど美味しい菓子にめぐり合いました。千葉県市川市の「菓匠京山」。師匠の佐々木勝先生は、業界でも著名な名人でした。名人のもとで修業したからと言って自分もそうなれるとは思いませんでしたが、せめて「あん」だけは美味しく炊けるようになりたい。その一心で修業しました。
修業を終えて実家に帰り、やることといえば「あん」にこだわること。つぶ餡は丹波大納言。価格があまりにも高いため、扱う店はほとんどありません。こし餡は何回も何回も渋切りとさらしを繰り返し、なめらかな口どけと、美しい薄紫色にこだわりました。
しかし、手間暇かけてあんにこだわるものの、売上は現状維持が精一杯でなかなか伸びません。原価が上がり、生産性を落としてまであんに賭けていた私は、ジリジリとした不安にさいなまれていきます。
そんな私を見かねた妻は、県が主催する物産のブランド化事業に応募してくれました。五人の審査員を前にした選考会で、私は和菓子に賭ける情熱をぶつけました。必死に話す私に、冷静に的確なアドバイスを下さる審査委員長。その場で心打たれたその方こそ、大木紀元先生でした。
禅宗の逸話「拈華微笑」(以心伝心の意)より、心から心に伝わる本物の和菓子で、召し上がった方に至福の微笑みをお届けする。「微笑庵」の名に込められた想いは、私が長い間探し求めていたものでした。三代続いた「みやざわ製菓」の看板を下ろし、平成十四年、微笑庵は生まれました。今年で十年になります。
群馬県指定品種「やよいひめ」苺の極上品のみで作る「ちごもち」、本蕨粉のみで作る「わらびもち」など、四季や伝統美を大切にした上質な和菓子で、単に美味しいを越える「人を幸せにする菓子」を目指し、地道に精進させて頂きます。
群馬県菓子工業組合高崎支部・微笑庵・宮澤啓